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[HTT19-04] 衛星リモートセンシングによる森林蒸散量推定モデルの開発 -長期樹液流観測データ、森林簿データを通して-
キーワード:衛星リモートセンシング、蒸発散、樹液流、森林簿
蒸発散は地球上の水循環において主要な要素の一つである。近年では大雨による水災害、渇水被害が数多く発生している。このことから、水涵養機能を有する森林域における、蒸発散量の高精度推定が求められている。森林に覆われている地域では、特に樹冠蒸散として、大気への水の移動量が増加する。樹冠蒸散量の推定は、森林全体での蒸発散量推定において欠かすことのできない要素である。
樹冠蒸散量の全体像把握には、広域での観測が必要不可欠である。先行研究では、蒸散量の実測値として、樹木の辺材を通過する樹液流量を用いている。しかし、樹液流量の広域実測は膨大な時間や労力を必要とするため、実現が困難であった。衛星リモートセンシングは、これらの課題を伴わない非常に有効な手法である。先行研究において、森林における総蒸発散量推定のために、数多くのモデルが開発されてきた。これらの主な課題として、1. 植生が被覆している地域において、その種類や状態に影響を受けること、2. 総蒸発散モデルにおいて、蒸散と蒸発を正確に区別することが困難であることが挙げられる。樹冠蒸散量は他の蒸発要素とは異なり、気温、日射等の気象的要素だけでなく、植生の状態、光合成量にも影響を受ける。これらを加味した樹冠蒸散量推定モデルを作成することで、高精度かつ広域での樹冠蒸散量推定が可能になることが期待される。
本研究では樹冠蒸散を対象とし、1. 気象学的影響、2. 植物生理学的影響を加味した樹冠蒸散量推定モデルを、衛星リモートセンシングを用いて開発することを目的とした。気象学的影響の評価は、衛星画像から得られる表面温度を利用した。植物生理学的影響は、光合成量、葉面積を影響を与える要素とし、マルチスペクトルデータから得られる分光反射率、及び植生指数を用いて評価した。
樹冠蒸散量の実測値として、栃木県佐野市唐沢山で観測された、2011年から2018年のヒノキ林における樹液流量を利用した。衛星画像はLandsat5, 7, 8を用い、樹液流量観測と同一期間のデータを利用した。気象学的影響の評価のため、衛星画像から得られる表面温度から空気密度を算出し、樹液流量の関係を調査した。その結果、1月から3月では、空気密度―樹液流量の間に高い相関関係があることが明らかとなった。この関係を用いて、気象学的に影響を受ける樹冠蒸散量を定義した。樹種の分布が示されている森林簿データ(群馬県桐生川ダム周辺)、および2011年から2018年にかけてのLandsat5, 7, 8画像を利用し、ヒノキ林における可視光、および近赤外反射率の季節変動を調査した。その結果、近赤外は葉面積に、可視光赤・可視光緑を利用した正規化指標は光合成量に敏感であることが示唆された。推定された葉面積、及び光合成量を用いることで、植物生理学的に影響を受ける樹冠蒸散量を定義した。これら二つの要素は、季節によって影響する割合が変化する。すなわち、推定する日の気温によって、それらの影響度合いが変化することが考えられる。それぞれの要素が影響する割合を定めるため、樹液流実測地点における2011年から2018年にかけての最低、最高表面温度をそれぞれ0、1とし、ある日の表面温度を0から1の間で表す指標を作成した。これにより、気象学的に影響される割合、および植物生理学的に影響する割合を定めた。
これらの結果を基に、樹冠蒸散量推定モデルを作成し、実測樹液流量とモデルとの関係(175日分)を調査したところ、r2=0.70の高い相関関係が見られ、モデルの有効性が確認された。
本研究で開発されたモデルは、衛星画像のみで樹冠蒸散量推定が可能、地域による気候の差異に影響を受けにくい、植生の活性度を考慮しているといった利点が挙げられる。
樹冠蒸散量の全体像把握には、広域での観測が必要不可欠である。先行研究では、蒸散量の実測値として、樹木の辺材を通過する樹液流量を用いている。しかし、樹液流量の広域実測は膨大な時間や労力を必要とするため、実現が困難であった。衛星リモートセンシングは、これらの課題を伴わない非常に有効な手法である。先行研究において、森林における総蒸発散量推定のために、数多くのモデルが開発されてきた。これらの主な課題として、1. 植生が被覆している地域において、その種類や状態に影響を受けること、2. 総蒸発散モデルにおいて、蒸散と蒸発を正確に区別することが困難であることが挙げられる。樹冠蒸散量は他の蒸発要素とは異なり、気温、日射等の気象的要素だけでなく、植生の状態、光合成量にも影響を受ける。これらを加味した樹冠蒸散量推定モデルを作成することで、高精度かつ広域での樹冠蒸散量推定が可能になることが期待される。
本研究では樹冠蒸散を対象とし、1. 気象学的影響、2. 植物生理学的影響を加味した樹冠蒸散量推定モデルを、衛星リモートセンシングを用いて開発することを目的とした。気象学的影響の評価は、衛星画像から得られる表面温度を利用した。植物生理学的影響は、光合成量、葉面積を影響を与える要素とし、マルチスペクトルデータから得られる分光反射率、及び植生指数を用いて評価した。
樹冠蒸散量の実測値として、栃木県佐野市唐沢山で観測された、2011年から2018年のヒノキ林における樹液流量を利用した。衛星画像はLandsat5, 7, 8を用い、樹液流量観測と同一期間のデータを利用した。気象学的影響の評価のため、衛星画像から得られる表面温度から空気密度を算出し、樹液流量の関係を調査した。その結果、1月から3月では、空気密度―樹液流量の間に高い相関関係があることが明らかとなった。この関係を用いて、気象学的に影響を受ける樹冠蒸散量を定義した。樹種の分布が示されている森林簿データ(群馬県桐生川ダム周辺)、および2011年から2018年にかけてのLandsat5, 7, 8画像を利用し、ヒノキ林における可視光、および近赤外反射率の季節変動を調査した。その結果、近赤外は葉面積に、可視光赤・可視光緑を利用した正規化指標は光合成量に敏感であることが示唆された。推定された葉面積、及び光合成量を用いることで、植物生理学的に影響を受ける樹冠蒸散量を定義した。これら二つの要素は、季節によって影響する割合が変化する。すなわち、推定する日の気温によって、それらの影響度合いが変化することが考えられる。それぞれの要素が影響する割合を定めるため、樹液流実測地点における2011年から2018年にかけての最低、最高表面温度をそれぞれ0、1とし、ある日の表面温度を0から1の間で表す指標を作成した。これにより、気象学的に影響される割合、および植物生理学的に影響する割合を定めた。
これらの結果を基に、樹冠蒸散量推定モデルを作成し、実測樹液流量とモデルとの関係(175日分)を調査したところ、r2=0.70の高い相関関係が見られ、モデルの有効性が確認された。
本研究で開発されたモデルは、衛星画像のみで樹冠蒸散量推定が可能、地域による気候の差異に影響を受けにくい、植生の活性度を考慮しているといった利点が挙げられる。