日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT21] 地理情報システムと地図・空間表現

2022年5月26日(木) 13:45 〜 15:15 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、コンビーナ:田中 一成(大阪工業大学工学部都市デザイン工学科)、中村 和彦(東京大学)、座長:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、田中 一成(大阪工業大学工学部都市デザイン工学科)、中村 和彦(東京大学)

14:45 〜 15:00

[HTT21-05] 脳波解析を用いた環境音の評価方法に関する研究

*大辻 翔太郎1田中 一成1 (1.大阪工業大学)


キーワード:環境、音、脳波

1.はじめに
 新型コロナウィルスの大流行により、外出の自粛を余儀なくされ、授業や仕事だけではなく、オリンピック観戦やライブイベント、学生の年間行事のような娯楽もオンライン化してしまった。このような急激な生活環境の変化と、行き場のない不安や怒りからくる精神的ストレスは、日常生活の質を大きく損ねたに違いない。そこで、快適な空間づくりの観点から、人々の従来の生活の一部を再現することで、生活の質を少しでも取り戻せるのではないかと考えた。
2.研究の目的と方法
 今回のパンデミックのように、将来、外出ができなくなって従来のお気に入りの場所に足を運べなくなる時が来る可能性はゼロではない。そこでコロナ禍になって浸透したリモート化という考えを用いて、目的の環境を思い起こせるものを体感することができれば、その人にとっての快適な環境を疑似的に再現できるのではないかと考える。
 本研究では、さまざまな媒体があり、その普及率も高く、場所の移動が容易である音に着目した。ここでは、本人が意識せずに快適と感じる音環境の存在と、その音の傾向を明らかにすることを目的とする。被験者に、限りなく元の音を録音したものを環境ごとに聴かせ、好まれる傾向にある環境音の分類分けやその個人差を見極めるために、生理反応である脳波のα波周波数帯を比較し分析した。
3.脳波測定
 実験に用いた機器はPCMレコーダー(ZoomH2n)、簡易脳波測定器(EMOTIV EPOC X)、モニターイヤホン(SHURE SE215)である。EMOTIV EPOC Xで測定できる脳波のうち、集中・リラックスした状態と深く関わりのあるα波を、専用ソフトのEMOTIVPROで検出し、環境ごとにα波周波数帯の出やすさと数値を分析した。実験は学生を対象におこなった。実験内容を伝えずに、10か所の環境音を各10秒+インタミ5秒の計150秒聴いてもらった結果、若干の差はある全員が類似した波形を検出した。区間ごとのα波平均値の強度の現れ方からパターン1(脳波強度大)、パターン2(脳波強度小)に分類できた。
 全体を通して、生活音や足音、研究室のような、人の生活動作が音源である環境が上位に並ぶ結果となった。特に生活音(皿洗い)は両社とも高い傾向であることが読み取れる。パターンごとに比較すると、2種ある公園に関連する環境音はパターン1でしか上位に見られず、パターン2において、『広場』に関連する環境は上位に並ばない結果となった。対して、ショッピングモールや改札前のような、全体的に音の内容が個別に聞き取りにくい『混ざった音』が主体を占める環境音はパターン2で多く上位に並んだ。このことから、聞き手の若干の個人差はあるものの、α波周波数帯の出やすさと、好まれる環境の特色には関連性があることが考えられる。
4.フーリエ解析
 環境音そのもののα波強度値の現れ方の傾向をパターンごとに比較するために、脳波測定実験から判明したデータを用いてフーリエ解析をおこなった。両パターンとも近似曲線の波形は類似する形状であることがわかる。周波数ごとの振幅の増減の傾向を比較した結果、3通りの組み合わせができた。それぞれの音の種類に共通する要素が少ないものの、環境音として遠近感が類似しているといえる。つまり遠方の音から近い音までの傾向がみられた。
 また、環境音ごとの振幅の違いに大きな差はパターン1の小さい周波数帯域のみ、わずかながら見受けられた。脳波の現れ方から、区間内の一つ一つの音に敏感に反応していることは明らかであり、この被験者たちは短時間でリラックスした状態で深く音源に浸れていたことが考えられる。
5.おわりに
 本研究では、人間の生理反応である脳波の測定実験を行い、そのなかでも集中・リラックスした状態に関連するα波周波数帯の強度を比較した。フーリエ解析を行うことで、α波周波数帯の現れ方を分析した。これらの結果として、音源を深く聴き込めた人は、穏やかな環境音を好み、聴き込められなかった人は、音の内容が個別に聞き取りにくい『混ざった音』が主体の環境音を好む傾向があるのではないかと考える。
 しかし、環境音そのものの快適性の度合いを明確に見出すことができなかった。これは、実験の測定時間が短かったために、移り変わる環境音の視覚イメージが湧きにくかったことがその原因であると考える。そのため環境音を詳細に評価するには、各環境に対する聴き手の先入観やイメージの違いなどの個人差を考慮する必要があると考える。このため、統計的にさらに多くのデータを扱う必要がある。音のみで聴き手の聞こえかたを統一することは難しく、視覚イメージや心理的反応の調査など、別の要因を交えた検証を行う必要がある。