日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI29] Data assimilation: A fundamental approach in geosciences

2022年5月26日(木) 13:45 〜 15:15 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:中野 慎也(情報・システム研究機構 統計数理研究所)、コンビーナ:藤井 陽介(気象庁気象研究所)、三好 建正(理化学研究所)、コンビーナ:加納 将行(東北大学理学研究科)、座長:三好 建正(理化学研究所)、藤井 陽介(気象庁気象研究所)

15:00 〜 15:15

[MGI29-06] 最尤法アンサンブルフィルタに対する効率的な観測空間局所化の導入

★招待講演

*中下 早織1榎本 剛2 (1.京都大学理学研究科、2.京都大学防災研究所)


キーワード:最尤法アンサンブルフィルタ、観測空間局所化、非線形観測

最尤法アンサンブルフィルタ(MLEF; Zupanski, 2005)において、観測演算子の非線形性を従来のアンサンブルカルマンフィルタよりも正確に評価し、並列環境での効率的な実装を可能にする観測空間局所化手法を提案する。局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(LETKF; Hunt et al., 2007)で行われている観測空間局所化では、解析格子点ごとに局所領域に含まれる観測を用いて解析を行う。これはアンサンブル摂動の線形結合係数を格子点ごとに評価することに相当する。LETKFでは線形結合係数を解析的に求めるため、格子点ごとに独立に解析を行うことができる。これはLETKFの並列実装効率が高いことを示している。一方MLEFはアンサンブル変分法の一種であり、非線形コスト関数の最適化によって反復的に線形結合係数を求める。MLEFで格子点ごとに解析を行なおうとする場合、勾配は格子点ごとに定義できるが、最適化の反復で観測演算子の再評価が必要となる。そのため格子点ごとに独立に解析することができず、並列実装では勾配評価ごとに状態変数の通信をしなければならない。線形結合係数の空間変化は状態変数の変化より緩やかであることが知られている(Yang et al., 2009, Kotsuki et al., 2020)。そこで本研究で提案する手法では、解析格子点に影響を及ぼす観測が存在する局所領域内で結合係数が一定であるという仮定を置き、局所領域ごとにコスト関数を定義する。これにより格子点ごとに独立に最適化を行うことができるため、並列実装で有利となる。本研究では前述した局所的な勾配を用いて解析領域全体で最適化を行う観測空間局所化MLEFと、結合係数一定の仮定を置いた観測空間局所化MLEFを実装し、従来の観測空間局所化手法であるLETKFとLorenz96モデルを用いたサイクル実験による比較を行った。MLEFはどちらの実装でも強非線形観測を同化する場合にLETKFより高い解析精度を示した。非線型性を強くするほどLETKFでは誤差の収束が遅くなり精度が安定しないのに対し、MLEFは非線型性の強さによらず安定した精度を示していた。局所的な勾配を用いるMLEFと局所的なコスト関数を用いるMLEFを比較すると、弱非線形の場合に局所的なコスト関数を用いるMLEFの方が高い精度を示しており、これは最適化の収束性が影響を与えていると示唆される。アンサンブル結合係数は局所領域内で高い空間相関を持ち、結合係数一定の仮定が精度良く成り立っていることを示していた。提案手法は解析過程を完全に並列実装することができ、大規模な問題に適用する上で局所的勾配を用いるMLEFよりも高速化の期待が高い。これらの結果は提案手法が高次元問題に適用可能であることを裏付けている。