日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS11] ジオパーク

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (32) (Ch.32)

コンビーナ:尾方 隆幸(琉球大学大学院理工学研究科)、コンビーナ:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、座長:青木 賢人(金沢大学地域創造学類)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、尾方 隆幸(琉球大学大学院理工学研究科)

11:00 〜 13:00

[MIS11-P02] 斑糲岩の磁性を利用した「石釣りゲーム」の開発 —室戸ジオパークにおける教育ゲームの実践例—

*柿崎 喜宏1、中村 昭史1、小笠原 翼1 (1.室戸ジオパーク推進協議会)

キーワード:科学の普及、磁石、岩石磁性、斑糲岩、鉄、生物地球化学的循環

室戸ユネスコ世界ジオパークでは,市内外の児童生徒を対象にしたジオパーク学習を実施している.2021年10月より,ジオパークのエリアに露出する斑糲岩の磁性と磁石を使用した教育ゲームを新たに開発し,ジオパーク学習に組み込んでいる.本発表ではこの教育ゲームの開発のきっかけと過程,実践の様相を報告する.
室戸岬の先端には1400万年前の前弧域のマグマ活動で形成された室戸斑糲岩体[1, 2]が露出する.斑糲岩体の分布を横切るようにして道路が掘削されたため,掘削で出た岩片や砂利は周辺の遊歩道の敷石や砂利,銅像の台座などに使用されている.室戸斑糲岩体には磁鉄鉱やチタン磁鉄鉱といった鉄を含む磁性鉱物が含まれる[2].特に岩体の中でもペグマタイト相は磁鉄鉱を含み[2],つよい磁性を帯びる.
これまで,室戸ジオパークでは室戸岬でジオパーク学習を実施してきた.室戸斑糲岩体の複数の露頭はジオサイトに指定されており,児童・生徒を案内することも多かったが,斑糲岩体のジオサイトでは視覚的特徴のみを説明することが多かった.一般に,岩石の磁性は来訪者−とくに年少者の興味をつよく喚起する.そして斑糲岩は,玄武岩,蛇紋岩と並んで磁石に反応する代表的な岩石でもある.そこで磁石を使用して,斑糲岩の磁性をジオパーク学習の中で展示・解説することを発想した.
私たちが使用している磁石はSTAR FOCUS社が販売する直径12mm,厚さ5mm, 皿穴4mmのボタン型のネオジム磁石である.皿穴に約40cmのたこ糸を結びつけて使用している.私たちはこれらの磁石をジオパーク学習に参加する児童・生徒に配布し,「このサイトで1種類だけ磁石につく石がある.それを見つけて下さい」と指示する.そうすると児童・生徒—特に年少の児童たち―は磁石を手にしてより積極的に露頭を観察するようになった.
磁石を使用したジオパーク学習は複数回行われ,磁石が児童たちの露頭への興味を喚起する有用な手段であることを確認した.そこで,さらにゲーム性を高めた教育プログラム「石釣りゲーム」を考案した.斑糲岩の砂利が使用されている公園を会場に,児童に磁石を使って石を“釣る”ゲームに挑戦してもらった.石釣りゲームでは,児童を複数の班に分け,一班に一つずつ磁石を配布する.リレー形式で一人一回ずつ砂利の中から石を「釣って」もらう.班ごとに釣った石を紙コップに集め,最後に重量を計測して,集めた石の重量が最も多かった班を優勝とする.参加した児童は,磁石を下ろす角度,引き上げるときのスピードを調整しながら,より大きな石を釣ろうと工夫していた.岩石磁気の有無は,岩石の種類や形成プロセス,そして鉄の存在と深く関わっており,児童・生徒らは特別な知識はなくとも,それらの違いを体感的に学ぶことができる.
児童・生徒らは小学校で磁石の性質について学び[3],中学校の理科と家庭科の授業で,私たちの血液には鉄が含まれており,健康のためには,鉄分を含む食物を摂る必要があることを学ぶ[4, 5].石釣りゲームのねらいは岩石地球に鉄が豊富に含まれていることを体感してもらうこと,そして鉄が地球表層を循環しており,岩石由来の鉄が生態系を通じて私たちの体に取り込まれていることを学んでもらう点にある.私たちはこのゲームを通して,児童・生徒らに,自然界の物質はさまざまに姿・形を変えて地球,生態系,私たちの間を循環していることを知ってもらい,自然に愛着と関心を持ってもらうことを意図している.