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[MIS13-02] 北海道日高沿岸から内浦湾沿岸に分布する17世紀の津波堆積物を説明する津波波源の推定と評価
キーワード:津波堆積物、1640年北海道駒ヶ岳噴火、十勝沖・根室沖の連動地震、1611年慶長奥州地震、津波シミュレーション、山体崩壊シミュレーション
北海道から東北地方太平洋岸には17世紀の津波堆積物が広く分布しており,北海道東部太平洋岸では,十勝沖・根室沖の連動地震もしくは1611年慶長奥州地震,東北地方については1611年慶長奥州地震を成因とする津波堆積物が複数地点で確認されている。北海道西部の内浦湾に分布する津波堆積物は1640年北海道駒ケ岳噴火の山体崩壊による津波が成因とされるが,胆振・日高地域沿岸については,同津波のほか,十勝沖・根室沖の連動地震,1611年慶長奥州地震もしくはその他の地震の可能性があり,現時点で特定に至っていない。
胆振・日高地域及び内浦湾沿岸は,これまで面的に広く津波堆積物調査が行われ,17世紀の津波堆積物の分布が詳細に確認されている(高清水ほか(2007),高清水ほか(2017),中西・岡村(2019)他)。高清水ほか(2013)は,胆振海岸東部に分布する17世紀の津波堆積物の堆積学的解析から,1つのイベントで少なくとも3回の強い津波の内陸へ侵入があったとしている。以上の知見を踏まえ,本検討では,①津波堆積物の分布と津波シミュレーションによる浸水域の比較,②胆振海岸東部の津波来襲特性を再現性の指標とし,日高沿岸から内浦湾沿岸に分布する17世紀の津波堆積物を説明する津波波源を推定した。
検討対象とした津波波源及び数値シミュレーション手法について,地震に起因する津波は,十勝沖・根室沖の連動地震,1611年慶長奥州地震及び三陸沖北部において約100年間隔で繰り返し発生しているプレート間地震(1677年,1763年,1856年,1968年)を対象に,非線形長波理論を用いて実施した。1640年北海道駒ケ岳噴火による津波については,土砂崩壊挙動から津波の発生・伝播過程を組み合わせた数値シミュレーションを実施した。山体崩壊シミュレーションは,土砂の斜面降下実験等で適用性が検証されたシミュレーションコードTITAN2Dを用いて,崩壊土量を1.5㎞3と1.7㎞3に変化させ,海域への土砂流入量及び吉本ほか(2003)による海域の土砂堆積範囲の再現性を確認した。津波シミュレーションは,山体崩壊シミュレーションから得られる崩壊土の層厚及び移動速度の経時変化を入力条件とした二層流モデルを用い,波の分散性を考慮するため非線形分散波理論を適用した。
検討の結果,胆振沿岸から内浦湾沿岸に分布する17世紀の津波堆積物を説明できる波源は,1640年北海道駒ケ岳噴火による津波のみであることを確認した。また,既往研究で,これまで課題とされていた内陸に位置し分布標高が高い伊達市アルトリ(標高12.1m),むかわ町(標高8m)の津波堆積物も説明できる。さらに,胆振海岸東部への津波来襲特性も説明できることを確認した。津波が内陸へ複数回遡上した要因は,胆振沿岸の湾曲地形と大陸棚が広がる海底地形の影響により発生したエッジ波によるものと考えられる。日高町賀張の17世紀の津波堆積物については,他地点と比較して海岸線に近く(内陸に約150m),分布標高が低い(標高3.86m)ことから,1640年北海道駒ケ岳噴火による津波のほか,十勝沖・根室沖の連動地震,三陸沖北部のプレート間地震でも説明できる。
北海道西部太平洋岸に分布する津波堆積物は17世紀のみであり,過去に繰り返しの津波の来襲を示していない地質学的証拠も考慮すると,日高沿岸から内浦湾沿岸に分布する17世紀の津波堆積物を最も合理的に説明できる津波は,1640年北海道駒ケ岳噴火による津波と評価する。
謝辞
新潟大学高清水康博准教授には,北海道胆振沿岸東部及び日高沿岸の津波堆積物データを提供いただきました。ここに記して感謝の意を表します。
文献
高清水康博ほか(2007)北海道胆振海岸東部から確認された17世紀の津波堆積物,第四紀研究,46(2),p.119-130.
高清水康博ほか(2017)北海道日高海岸北部から確認された17世紀の津波堆積物,第四紀研究,56(1),p.1-9.
高清水康博ほか(2013)砂丘を越えて沿岸低地を遡上した津波による堆積モデル:北海道胆振岸東部に分布する17世紀津波堆積物の研究例,地質学雑誌,119(1),p.1-16.
中西諒・岡村聡(2019)1640年北海道駒ヶ岳噴火による津波堆積物の分布と津波規模の推定,地質学雑誌,125(12),p.835-851.
吉本充宏ほか(2003)海域に流入した北海道駒ヶ岳火山1640年岩屑なだれ堆積物の分布と体積推定,地質学雑誌,109(10),p.595-606.
胆振・日高地域及び内浦湾沿岸は,これまで面的に広く津波堆積物調査が行われ,17世紀の津波堆積物の分布が詳細に確認されている(高清水ほか(2007),高清水ほか(2017),中西・岡村(2019)他)。高清水ほか(2013)は,胆振海岸東部に分布する17世紀の津波堆積物の堆積学的解析から,1つのイベントで少なくとも3回の強い津波の内陸へ侵入があったとしている。以上の知見を踏まえ,本検討では,①津波堆積物の分布と津波シミュレーションによる浸水域の比較,②胆振海岸東部の津波来襲特性を再現性の指標とし,日高沿岸から内浦湾沿岸に分布する17世紀の津波堆積物を説明する津波波源を推定した。
検討対象とした津波波源及び数値シミュレーション手法について,地震に起因する津波は,十勝沖・根室沖の連動地震,1611年慶長奥州地震及び三陸沖北部において約100年間隔で繰り返し発生しているプレート間地震(1677年,1763年,1856年,1968年)を対象に,非線形長波理論を用いて実施した。1640年北海道駒ケ岳噴火による津波については,土砂崩壊挙動から津波の発生・伝播過程を組み合わせた数値シミュレーションを実施した。山体崩壊シミュレーションは,土砂の斜面降下実験等で適用性が検証されたシミュレーションコードTITAN2Dを用いて,崩壊土量を1.5㎞3と1.7㎞3に変化させ,海域への土砂流入量及び吉本ほか(2003)による海域の土砂堆積範囲の再現性を確認した。津波シミュレーションは,山体崩壊シミュレーションから得られる崩壊土の層厚及び移動速度の経時変化を入力条件とした二層流モデルを用い,波の分散性を考慮するため非線形分散波理論を適用した。
検討の結果,胆振沿岸から内浦湾沿岸に分布する17世紀の津波堆積物を説明できる波源は,1640年北海道駒ケ岳噴火による津波のみであることを確認した。また,既往研究で,これまで課題とされていた内陸に位置し分布標高が高い伊達市アルトリ(標高12.1m),むかわ町(標高8m)の津波堆積物も説明できる。さらに,胆振海岸東部への津波来襲特性も説明できることを確認した。津波が内陸へ複数回遡上した要因は,胆振沿岸の湾曲地形と大陸棚が広がる海底地形の影響により発生したエッジ波によるものと考えられる。日高町賀張の17世紀の津波堆積物については,他地点と比較して海岸線に近く(内陸に約150m),分布標高が低い(標高3.86m)ことから,1640年北海道駒ケ岳噴火による津波のほか,十勝沖・根室沖の連動地震,三陸沖北部のプレート間地震でも説明できる。
北海道西部太平洋岸に分布する津波堆積物は17世紀のみであり,過去に繰り返しの津波の来襲を示していない地質学的証拠も考慮すると,日高沿岸から内浦湾沿岸に分布する17世紀の津波堆積物を最も合理的に説明できる津波は,1640年北海道駒ケ岳噴火による津波と評価する。
謝辞
新潟大学高清水康博准教授には,北海道胆振沿岸東部及び日高沿岸の津波堆積物データを提供いただきました。ここに記して感謝の意を表します。
文献
高清水康博ほか(2007)北海道胆振海岸東部から確認された17世紀の津波堆積物,第四紀研究,46(2),p.119-130.
高清水康博ほか(2017)北海道日高海岸北部から確認された17世紀の津波堆積物,第四紀研究,56(1),p.1-9.
高清水康博ほか(2013)砂丘を越えて沿岸低地を遡上した津波による堆積モデル:北海道胆振岸東部に分布する17世紀津波堆積物の研究例,地質学雑誌,119(1),p.1-16.
中西諒・岡村聡(2019)1640年北海道駒ヶ岳噴火による津波堆積物の分布と津波規模の推定,地質学雑誌,125(12),p.835-851.
吉本充宏ほか(2003)海域に流入した北海道駒ヶ岳火山1640年岩屑なだれ堆積物の分布と体積推定,地質学雑誌,109(10),p.595-606.