日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS13] 津波堆積物

2022年5月26日(木) 10:45 〜 12:15 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)、コンビーナ:石澤 尭史(東北大学 災害科学国際研究所)、渡部 真史(中央大学)、コンビーナ:谷川 晃一朗(国立研究開発法人産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:石澤 尭史(東北大学 災害科学国際研究所)、山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)

11:15 〜 11:30

[MIS13-09] 甑島中山地区における過去2500年間の環境変遷とイベント堆積物

*吉井 匠1鹿島 薫2、原口 強3田中 姿郎1松山 昌史1、濱田 崇臣1、伊藤 由紀1、平野 伸一1 (1.(一財)電力中央研究所、2.九州大学、3.大阪市立大学)

キーワード:台風堆積物、津波堆積物、環境変遷

地層中に保存される津波堆積物は、文献等による歴史資料よりも長期間の津波履歴を記録している可能性があり、地震・津波防災において極めて重要な資料となりうる。津波履歴の社会的な影響の大きさを踏まえると、津波堆積物の認定は他の自然現象を起因する可能性も含めて慎重に検討する必要がある。本発表では、津波堆積物と台風(高波浪、高潮)堆積物の区分方法の確立を目指し、台風起因の堆積物[1]が報告されている甑島にて実施したイベント堆積物調査結果の速報を行う。
 現地調査は、鹿児島県甑島中山地区にて実施した。当海岸は南東方向に面したポケットビーチ状の礫浜であり、浜堤背後に後背湿地が存在する。椎原ら[2]は当湿地を掘削した結果、複数の海起源のイベント堆積物が抽出されたことを示している。本調査では、6m長のジオスライサーを用いて、椎原らの掘削地点(2地点)間の4地点で過去2,500年程度の地質試料を採取した。掘削した試料には複数のイベント層(主に砂礫層)が含まれており、これらは内陸方向に連続していることが分かった。また、その一部は椎原らが示したイベント堆積物とも対比できる可能性が示された。
 試料中の珪藻遺骸を分析した結果、4地点の珪藻群集の変動には共通性が見られ、当該地点が2,500年間で塩性湿地、低湿地・湖沼、塩性湿地、湖沼と変遷してきたと推測された。特に、塩性湿地と考えられた層準の下限は砂礫層であり、この砂礫層の形成時に浜堤の崩壊や、沈降など当地点の環境に大きな変化が生じた可能性が示唆された。
 調査地点に津波を生じさせる甑断層帯の平均活動間隔は2,400-11,000年程度と評価されており[3]、イベント層が形成される頻度よりも遥かに低頻度であることを踏まえると、今回の調査で発見されたイベント層は台風起因である可能性が高いと考えられる。ただし、現時点で、発見された砂礫層を津波、もしくは台風起源に区分する明確な物証はなく、両者を区分するためにはさらなる分析や、イベント層の形成時期に関する広域での対比が必要である。


参考文献
[1] Woodruff, J.D., Donnelly, J.P., Okusu, A., 2009. Exploring typhoon variability over the mid-to-late Holocene: evidence of extreme coastal flooding from Kamikoshiki, Japan. Quaternary Science Reviews 28, 1774–1785.
[2] 椎原 美紀, 原口 強, 柴田 徹, 2018. 九州西岸域における津波堆積物調査,日本地球惑星科学連合大会2018年予稿集, MIS11-P20.
[3]地震調査研究推進本部地震調査委員会, 2013. 甑断層帯の長期評価, 主要活断層帯の長期評価814.