日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS13] 津波堆積物

2022年5月26日(木) 10:45 〜 12:15 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)、コンビーナ:石澤 尭史(東北大学 災害科学国際研究所)、渡部 真史(中央大学)、コンビーナ:谷川 晃一朗(国立研究開発法人産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:石澤 尭史(東北大学 災害科学国際研究所)、山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)

12:00 〜 12:15

[MIS13-12] 完新世古沿岸環境復元と津波堆積物識別を目的とした珪藻群集解析における基礎的問題

★招待講演

*千葉 崇1 (1.酪農学園大学農食環境学群環境共生学類)

キーワード:津波堆積物、沿岸古環境、珪藻群集、タフォノミー

珪藻は多様な水環境に適応放散しており,その珪酸質の被殻が堆積物中に保存されやすく化石として多産するため,珪藻化石は地質学分野において過去の環境を示す,いわゆる示相化石として広く利用されている.特に沿岸域の完新世堆積物から産出する珪藻化石群集には,現生種の生態情報が利用されており,古地震研究及び津波堆積物研究にも応用されている.しかしながら,珪藻化石群集にはその生育時の情報全てが保存されているわけではなく,生体群集と化石群集の間には何かしらの違いが存在することが指摘されている.例えば,生体群集に認められるが化石群集には産出しない種のあることや逆に生体群集には認められない種が化石群集に産出すること,そして現生珪藻と化石珪藻の殻の保存度の違いなどである.これらは,珪藻群集を用いた古環境復元において,珪藻が化石となるまでの過程及び化石の保存に関する研究(タフォノミー)が無視できないことを意味する.
 2011年東北地方太平洋沖地震以降,堆積直後の津波堆積物に含まれる珪藻化石の報告は増加した.その結果,津波堆積物中の珪藻化石群集には決まった群集組成がないことや,含まれる珪藻化石の保存度が良い場合があることも報告された.また,世界各地で発見された津波堆積物に含まれる珪藻のリストも作成されている.一方,例えば北海道の十勝地域では,17世紀の津波堆積物が認められる低地の周囲に,中新世~鮮新世に形成した海成層が分布しており,それらに由来する誘導化石の完新世堆積物への混入が報告されている.このことは,古環境復元及び津波堆積物の認定において,誘導化石がノイズとなることを意味する.こうした地域における完新世古環境復元では,予め周囲に分布する海成層に含まれる珪藻種をリスト化し,群集解析から除外するなどの対処が必要になる.
 珪藻化石分析では,古くから現地性・異地性の問題や誘導化石の混入など,いわゆるリワーク珪藻の問題が議論されてきた.定量的なデータが重要となる古地震研究及び津波堆積物研究では,この点の理解がより重要になっていると考えられる.珪藻化石において深層学習による分類も検討されてきており,将来的には種同定が自動化されて誘導化石も機械的に識別できるようになるかもしれない.しかしながら現時点において,化石化過程に関する問題を完全に解決する方法はないため,少なくとも現世における種ごとの生態だけでなく,珪藻群集の形成過程とその化石化過程を,実験やフィールドワークを通して地道に検討していくことが重要である.さらに珪藻化石を古環境復元に用いるうえで,それら珪藻に関する知識だけでなく,調査地域の地層の分布や地形の分類といった,基礎情報の理解も重要である.本発表では,珪藻群集による堆積環境認定において考慮すべき点を取り上げ,その解決方法を化石化過程と関連させて紹介したい.