日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 生物地球化学

2022年5月26日(木) 15:30 〜 17:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、コンビーナ:柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、コンビーナ:山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)

16:30 〜 16:45

[MIS14-11] アナモックスと共在細菌の関係に着目したアナモックスアバンダンス制御因子の探索

*黒岩 恵1、村井 沙妃1、川面 佑登2、寺田 昭彦1、利谷 翔平1、安田 昌平1、諏訪 裕一2、高見 英人3 (1.東京農工大学、2.中央大学、3.東京大学大気海洋研究所 )

キーワード:アナモックス、脱窒、代謝ポテンシャル解析

【背景】
嫌気性アンモニア酸化(anammox)細菌はNH4+を用いた脱窒反応を行い、全球的な窒素循環に大きく関与している。また、従来の標準活性汚泥法による窒素除去に比べ、anammox法ではエネルギーコストの削減や環境負荷の低減が見込まれ、その利用が期待されている。この反応を担うanammox細菌は、長年の試みにもかかわらず未だ単離培養の成功例がなく、それゆえ、共在する細菌群の機能がanammoxの生育に与える影響が注目されている。
近年、anammox集積培養系を対象として、培養に依存しないメタゲノム・メタトランスクリプトーム解析により、anammox細菌と共在する細菌群の相互作用を推定する研究が行われるようになってきた。これらの報告において、アナモックス細菌は炭酸固定により有機物を共在細菌に供給し、一方で共在細菌はアナモックス細菌が合成能力を持たないビタミンや補因子を供給することが推定されている(Ali et al., 2020)。また、共在する脱窒細菌や異化的硝酸還元細菌が余剰なNO2-やNO3-を還元し、NO2-やNH4+をアナモックス細菌に提供すると推定されている(Lawson et al., 2017)。しかし、長期にわたる経時的なanammoxコンソーシアの組成や代謝ポテンシャルの変動から、anammox細菌と共在細菌間の恒常的な相互作用を検討した例はほとんど存在しない。また、多くの場合、メタゲノム配列から優占種の個別ゲノムを再構築し、細菌種単位での機能ポテンシャルを相互比較することで、競合や協働の関係が推定されてきた。しかし、相対存在率の小さい細菌群がリアクター全体の重油分解性能を決定する(Sato et al., 2019)例など、存在率と機能的重要性は必ずしも比例しない。
【目的】
そのため、本研究ではKEGG機能モジュールをベースとした代謝ポテンシャル評価ソフトウェアであるMAPLE (Takami et al., 2016)を用いて、代謝機能単位で細菌群集の代謝能力の有無および多寡と、各機能を担う微生物組成を評価した。また、無機培地を供給した2基のanammoxリアクターを材料に、複数回のメタゲノム解析を行い、anammox細菌の存在比率の変動と類似した変動を示す共在細菌の代謝ポテンシャルを探索した。この結果から、anammox細菌の生育に重要な共在細菌の機能を推定することを目的とした。
【方法】
不織布を担体とし、NH4+とNO2-を含む合成無機培地を流入させた上向流式カラムリアクターから採取したバイオマスを目開き53µmの試験篩に通し、均一化した。ISOIL for beads beating(ニッポンジーン)付属のプロトコルをベースとして、酵素処理およびビーズ破砕の手法を付加・改変した手法により、DNAを抽出した。NovaSeq, 250 bp paired endでショットガンシーケンスを行い、各試料につき約300万リードのアミノ酸配列をMAPLEでの解析に供した。細菌群集組成については、細菌のリボソームタンパク質にアノテーションされた配列の組成から評価した。また、このうちPlanctomycetes門に類別された配列について、アミノ酸の nr データベースを対象に BLASTp による相同性検索を行い、anammox群集の組成をより詳細に評価した。代謝ポテンシャルについては、各代謝モジュール内に含まれる全反応ステップに対し、各反応を担う機能遺伝子(群)が検出された反応ステップ数(%)を充足率と定義し、各代謝ポテンシャルの有無を判定した。これに加え、各反応ステップを担う機能遺伝子群の配列長あたりの出現頻度がもっとも低い過程を律速段階と考え、この値を比較することで機能ポテンシャルの豊富さ(アバンダンス)を比較した。
【結果と考察】
Anammoxと脱窒は、互いにNO2-を基質とする競合関係にある一方、複数の研究において中間生成物であるNOを介した協働関係も推定されている。両リアクターにおいて、脱窒の各反応ステップ中でNO還元を担う酵素遺伝子のアバンダンスが最も低く、NO生成ポテンシャルの2割未満で推移した。脱窒菌群集の生成したNOの一部がanammox細菌群集へと供給される関係性が持続的に機能する可能性が見いだされた。また、アミノ酸および補因子・ビタミン合成経路について、アナモックス細菌のみでは充足しないが、細菌群集全体では合成ポテンシャルを有する経路が複数見出された。なかでも、メナキノン合成経路のうち、フタロシン経路と、テトラヒドロ葉酸合成経路の代謝アバンダンスはアナモックス細菌の相対存在率と有意な正の相関(p < 0.05)を示した。メナキノン及びテトラヒドロ葉酸はともにanammox細菌の炭酸固定能に必須であることから、共在細菌によるこれらの物質の生成・放出に、anammox細菌が依存的あるいは制約的に生育することが示唆された。