日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 山の科学

2022年5月22日(日) 09:00 〜 10:30 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、コンビーナ:佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)、コンビーナ:今野 明咲香(常葉大学)、座長:佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)

09:15 〜 09:30

[MIS15-02] 北アルプス乗鞍火山の乗鞍大雪渓で2021年5月に発生した土石流

*佐々木 明彦1西村 基志2鈴木 啓助3,4 (1.国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース、2.国立極地研究所、3.信州大学山の環境研究センター、4.大町山岳博物館)

キーワード:土石流、積雪、融雪期、高山帯、乗鞍火山

2021年6月7日に,北アルプス乗鞍火山の乗鞍大雪渓において,雪面上に土石流堆積物が広がっていることを確認した。土石流の発生状況が一般の土石流と異なるものであることから, その発生状況と土石流の発生機構について検討した。
 土石流が発生した日は明らかではないが,5月24日以前であることは確実である。山麓の乗鞍休暇村では,5月16日から5月22日までの6日間の連続雨量が352mmであることから,この期間に土石流が発生した可能性は高いと考えられる。
 土石流の発生後の状況は, 6月7日と6月13日に実施した現地調査によって明らかにされた。6月13日にはUAVを用いた写真測量を実施した。以下で記述する標高や面積などは写真測量の結果もとづく。
土石流は標高2694m地点で発生した。雪渓の横断方向に長さ26mの亀裂がみられ,土石流はその亀裂から吹き出したと考えられる。この地点の地表面は,斜面のなかにおいては尾根状の地形をなし,周囲より高まっている。このため,6月13日の積雪深は,周囲の斜面では8mほどであるのに対し,この亀裂付近では2m程度であった。
雪渓の横断亀裂部には,吹き出した土砂が0.2m前後の層厚で堆積しており,その土砂を除去すると積雪が現れる。亀裂の開口幅は0.3~1 mほどであり,亀裂の中には土砂が詰まっている。土石流の吹き出しがとくに強かったとみられるところには,層厚0.5 mほどの土砂が堆積している。また,積雪面上には,幅1.5 m前後,深さ0.5~1.2 mの溝が,その地点から下方に約50 mにわたって形成されており,土石流の流下によって雪面が侵食されたことを示す。なお,土石流堆積物に混じる雪塊は認められなかった。
土石流堆積物は,発生域から斜面長で275 m下方まで広がった。土砂堆積域の最大幅は44 mである。土石流堆積物は,細礫と砂を主体とし,シルト・粘土も含む。その層厚は平均10cmほどで,下流側ほど厚い。礫の最大値は40 cmであり,土砂堆積域に20 cm以上の礫が散在する。土石流堆積物の表面に5~15 cmの礫が細粒物質を欠いて密集する場合もある。
土石流堆積物の末端の一部は雪面から出ている尾根に乗り上げ,他方の末端は斜面を横断する道路に至る。積雪面の平均傾斜は16°であるので,土石流は積雪面では停止しなかったであろう。土石流堆積物の堆積域には土石流が吹き出した形跡は認められず,この土石流堆積物の全てが2694 mの発生源から吹き出したものと考えられる。土砂が吹き出た横断亀裂より上方では,雪面に横断亀裂が複数認められ,それらの上方の積雪面には亀裂に続く縦断方向の流水跡が残っていた。融雪が進みつつあるなかで多量の降水が生じたことで,それまでに形成された積雪層下の流路では流水を流しきれなくなり,積雪層下において流水がダムアップしたと考えられる。積雪層下において流水の水圧が増したことで,相対的に積雪の薄い2694m地点において土砂を伴いながら流水が噴き出したものと考えられる。