日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 山の科学

2022年5月22日(日) 10:45 〜 12:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、コンビーナ:佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)、コンビーナ:今野 明咲香(常葉大学)、座長:今野 明咲香(常葉大学)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)

11:30 〜 11:50

[MIS15-10] 花粉分析からみた後氷期における日本海側のスギの変遷

★招待講演

*池田 重人1、志知 幸治1、岡本 透1 (1.森林総合研究所)

キーワード:スギ、後氷期、花粉分析

スギは日本の主要な造林樹種で、その天然分布は青森県から鹿児島県屋久島までの広い範囲におよんでいる。こうしたスギの分布変遷については、これまで花粉分析によってとくに最終氷期以降の過程が明らかにされてきた。ここでは、その中の定説といえる研究を概観するとともに、それに対する最近の研究を示しながら、演者らが新たに日本海側北部でおこなっている研究について報告する。
塚田(塚田1980、Tsukada1982)は、日本列島各地の34地点における花粉分析結果にもとづいて、スギは最終氷期最盛期には伊豆半島、若狭湾周辺、屋久島に逃避していたとし、最終氷期終了後の温暖化にともなって南北に広がって現在の分布域を形成した、とする説を唱えた。そのうち日本海側北部についてみると、晩氷期後半に若狭湾付近の逃避地から分布拡大をはじめて秋田県には3500~4000年前に到達したとして、年平均130~170mという移動速度を示している。塚田の説に対しては、いくつかの地点でより早い時期に到達したなどの報告がみられたものの決定的な反論はなく、これまで多くの引用を受けて議論の土台となってきた。
演者らは、スギは逃避地から大きい速度で移動したのではなく、最終氷期の寒冷期に各地に点在していた小集団から最終氷期終了後にそれぞれ広がって現在の分布域を形成した、という仮説のもと日本海側の各地で新たに花粉分析をおこなってきた。そのうち鳥海山麓の調査では、スギは晩氷期から2~3%の割合で産出した後も連続してみられ、約3300年前以降に急増していた(池田ほか2019)。このほかにも複数の地点において、古い時代からすでに小集団があったことが推定された。こうした結果は、各地に点在していたスギの小集団から広がって現在の分布域を形成したとする説を支持するものといえる。