日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 山の科学

2022年5月22日(日) 13:45 〜 15:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、コンビーナ:佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)、コンビーナ:今野 明咲香(常葉大学)、座長:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、今野 明咲香(常葉大学)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)

14:15 〜 14:35

[MIS15-14] 北アルプス南部における降積雪と雪面熱収支特性の特徴

★招待講演

*西村 基志1,2、田中 塁3佐々木 明彦4鈴木 啓助3 (1.信州大学大学院総合工学系研究科、2.国立極地研究所、3.信州大学理学部、4.国士舘大学文学部)

キーワード:山岳地域、季節積雪、降雪、表面熱収支

日本海沿岸から本州内陸に及ぶ広範な地域に標高3000 mにも及ぶ脊梁山脈が南北に連なる,これこそが世界的にも有数の豪雪地帯である北アルプスである.積雪は山岳地域における重要な陸水の一つであり,また,気象や植生,地下水など他の自然要素と密接な関係を持っている。つまり,大量の降雪が供給される北アルプスの降積雪の動態は,山岳地域の環境を考える上で不可欠な要素の一つであると言える。
本発表では,日本の中部山岳地域における降雪深の地域的特徴として,信州大学が継続して行っている北アルプス南部での気象観測のうち,乗鞍,上高地,西穂高における解析データを中心に示す。本発表で示す研究成果は著者らが信州大学で行った研究事例であり,山岳地域の自然環境の包括的な理解を目指し,他の自然要素に多大な影響を与えている要因として気象と降積雪に着目したものである。
日本の中部山岳地域に多くの降雪をもたらす主な気象条件として,西高東低の冬型の気圧配置と南岸低気圧の2つに着目する。これら二つの気象条件では湿潤空気塊の移流経路が異なり,南北に連なる中部山岳域の周辺では,降雪量の空間分布はより大きなものになると予想される。それは急峻な山体の風上・風下地域ではそれぞれ異なる大気環境,および,降水量が見られると考えられるためである。
信州大学および気象庁アメダスの観測データ解析から,中部山岳地域における明瞭な降水量勾配が南北方向,東西方向それぞれに確認された。アメダスの観測データの冬季積算降水量には,日本海沿岸地域で降水量が多く内陸部では少ない明瞭な南北勾配が見られ,また,信州大学が行った乗鞍岳東西斜面における積雪深観測では,冬型の気圧配置時と南岸低気圧時の降雪深に関して,東西斜面でそれぞれ特徴的な違いが見られた。加えて,冬型の気圧配置時において北アルプスの風下地域に当たる上高地では,大陸性気候の乾燥した大気条件下に類似した大気環境,積雪表面熱収支特性が見られた。これらはつまり,湿潤大気の移流経路の風上地域にあたる地域においては降水量が多く,反対に風下地域では降水量が少ない,すなわち,乾燥大気条件となっていることを示唆している。
上述のように日本の冬季の特徴的な降雪機構と中部山岳の稀有な急峻な地形によって,中部山岳地域の大気環境,降積雪は非常に興味深い特徴を有している。気候変動に伴い,全球的な気温上昇が報告されているなかで,山岳地域のような水平距離に対する気温勾配が大きい環境では,降水形態の変化も変動性が大きいと推察される。本発表を通じて,中部山岳地域の降積雪環境についての理解を深め,山岳域の積雪環境はどのように今後変化していくのか,考察を深めたい。