日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 南大洋・南極氷床が駆動する全球気候変動

2022年5月25日(水) 10:45 〜 12:15 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:関 宰(北海道大学低温科学研究所)、コンビーナ:菅沼 悠介(国立極地研究所)、箕輪 昌紘(北海道大学・低温科学研究所)、座長:竹原 景子(高知大学大学院総合人間自然科学研究科)、井上 崚(総合研究大学院大学)

11:45 〜 12:00

[MIS20-11] 東南極ケープダンレー底層水流下域における海底堆積物の粒度・鉱物組成に基づく底層流指標の検討

*竹原 景子1、西田 尚央2浦本 豪一郎3池原 実3 (1.高知大学大学院総合人間自然科学研究科、2.東京学芸大学 自然科学系、3.高知大学 海洋コア総合研究センター)


キーワード:南極底層水、粒度分析、鉱物組成

東南極プリッツ湾は,世界最大の氷山流出地域であり,高い海氷生産による南極底層水の形成が生じるため,グローバルな気候変動において重要な地域の一つである.ケープダンレー底層水(CDBW)は,他の底層水形成域と異なり,形成された底層水が陸棚上にトラップされることなく,海底谷を通して直接に深海域へ流入する.そのため,南大洋海底堆積物から底層水発達の変遷を読み解く上で,最適な研究対象地域となっている.また南極域では,重鉱物や粘土鉱物は堆積物の供給源の推定,粒度組成は堆積環境の識別に使用されており,その中でもCDBWが形成されるMac. Robertson大陸棚の鉱物組成は,南極沿岸流によって均質化されている角閃石とイライトを主体とした東南極大陸斜面と比較して大きく異なることが報告されている.よって,海底谷へのCDBW移流を堆積物の鉱物・粒度組成などの地質記録から復元することができると考えられる.ただし,プリッツ湾沖における従来の研究は大陸斜面中央から東側に集中しており,CDBWが流入する西側の研究例は報告されていない.そこで本研究は,CDBWが直接移流するワイルドキャニオン海底堆積物を用いて,粒度・鉱物組成に基づくCDBW指標の検討を行うことを目的とした.
本研究では,白鳳丸KH-20-1次航海で採取されたワイルドキャニオンの堆積物(チャネル:MC01, MC02,レビー:WIC-6PC, CAD-4PC)と第61次南極観測事業によって採取されたMac. Robertson大陸棚の堆積物(CD1_KG, CD4_KG)を用いた.マルチプルコアラーに取り付けられた深海カメラから,下流域(MC02)にクレストがうねった砂質リップルが観察されたため,CDBWと考えられる底層流の影響を受けていることが示唆された.また,MC02の下層は中央粒径が108 μmから4.2 μmの範囲で上方細粒化を示すことと,下位層の削剥によると考えられる全有機炭素による14C年代値の逆転が認められ,初生的には混濁流による形成が示唆される.大陸棚からワイルドキャニオンの重鉱物は,CDBWと混濁流による堆積物共に,ザクロ石と珪線石が支配的であった.粘土鉱物分析からは,CDBWの影響を受けた堆積物では東南極に均質的な黒雲母由来のイライトが優勢な鉱物組成を示し,混濁流による堆積物ではカオリナイトの含有量が上昇した.Mac. Robertson Landのランバート氷河流域では,ザクロ石や珪線石が支配的であるティライト(氷成角礫岩)や泥質変堆積岩が分布しており,一部の堆積岩ではカオリナイトマトリックスが形成されている.プリッツ湾周辺に同様の岩体は確認されていないため,ワイルドキャニオン堆積物はMac. Robertson Landを主要な供給源としていることが考えられる.よって,CDBWや混濁流など大陸棚からの移流はザクロ石と珪線石で特徴づけられることが示唆された.
これまでに,プリッツ湾中央からと東側の鉱物組成が報告されていたが,本研究においてワイルドキャニオンの堆積物の粒度・鉱物学的特徴が明らかになった.よって,海底堆積物の鉱物組成から南極沿岸流,CDBW,混濁流の影響を区別できる可能性が示唆された.今後は,ピストンコアを用いた指標の有用性の確認や,鉱物の形状・比重により運搬範囲が変化するため,より空間的範囲を広げた鉱物組成を見ていく必要がある.