日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS27] 大気電気学:気候変動に関連した大気電気現象

2022年6月2日(木) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (36) (Ch.36)

コンビーナ:芳原 容英(電気通信大学 大学院情報理工学研究科)、コンビーナ:長門 研吉(高知工業高等専門学校)、座長:芳原 容英(電気通信大学 大学院情報理工学研究科)、長門 研吉(高知工業高等専門学校)

11:00 〜 13:00

[MIS27-P05] シチズンサイエンス「雷雲プロジェクト」でのコガモ検出器による2021年度の雷雲ガン
マ線の観測と解析

*鶴見 美和1,2榎戸 輝揚1、一方井 裕子3、Diniz Gabriel1、高垣 徹4、三宅 晶子5、富岡 大5中澤 知洋6和田 有希7篠田 太郎8森本 健志9中村 佳敬10鴨川 仁11、土屋 晴文12 (1.理化学研究所、2.青山学院大学、3.金沢大学、4.ティーエーシー社、5.茨城高等専門学校、6.名古屋大学、7.大阪大学、8.名古屋大学 ISEE、9.近畿大学、10.神戸市立工業高等専門学校、11.静岡県立大学、12.JAEA)


発達した雷雲や雷では、強電場により電子が相対論的な領域まで加速され、なだれ増幅すると考えられている。加速された電子は大気とぶつかり、10 MeV に達するガンマ線帯域の制動放射光を放出する。例えば、雷雲中で起こる高エネルギー物理現象の一つである雷雲ガンマ線(gamma-ray glow)は、雷雲の通過時に伴って数十秒間にわたり地上にガンマ線が降り注ぐ現象で、その発生メカニズムには多くの未解明の点が残されている。
2006年に立ち上がったGROWTH実験では、雷雲ガンマ線を検出しやすい冬季の北陸に検出器を設置し、すでに70例の観測事例が報告している(Wada et al., Phys. Rev. Research, 2021)。これらの先行研究により、雷雲や雷から放射線が検出され、雲の中の電場による電子加速が明らかになってきたが、移動する雷雲を追跡するには観測点の数をさらに増やす必要がある。
そこで本研究では、雷雲ガンマ線の誕生や成長、消失、その継続時間といった時間変化や、雲内の電子加速領域の大きさなどの時空間情報を取得するため、シチズンサイエンスを活用した多地点観測「雷雲プロジェクト」を進めている。このプロジェクトでは、市民サポーターの協力で、小型で持ち運びのしやすい放射線モニタ「コガモ(Compact Gamma-ray Monitor)」を冬季の石川県金沢市に設置し、大規模な観測網を展開する。コガモは、5x5x15 cmのCsI(Tl)シンチレータと浜松ホトニクス社製の光検出器MPPCを組み合わせ、GPS信号や環境センサーの情報とともに、放射線の観測データを遠隔でモニターできる。この多地点観測でカバーする領域のサイズと密度を上げることで、雷雲を追跡し、①雷雲内の電子加速がいる開始しどのくらい継続し、どのように終わるのか、②どのような雷雲で電子加速が起きているのか、③加速された電子が雷放電のトリガーになることはあるのか、といった雷雲ガンマ線の謎の解明を目指す。
2021年度は石川県内に50台の観測体制を構築し、12月から3月まで観測を行っている。今年度は、遠隔送信データの常時監視による自動アラート機能と、金沢の東急ホテルに設置した可視光カメラの YouTube 配信を用い、冬季観測を遠隔でリアルタイム監視を実現した。本研究では、2021年度の観測と解析結果を報告する。
一例として、2021年12月19日14時20分頃に、2台のコガモが金沢市東部を移動する雲に沿って雷雲ガンマ線を検出した。1台のコガモが光子数400個ほどの増大を検出した約160秒後に、2 kmほど離れたコガモも光子数140個程度のイベントを記録していた。国土交通省が公開しているXRAINの合成雨量データと比較すると、このガンマ線の増光は上空の発達した降水雲の動きと一致し、移動する同一の雲からの放射と考えられる。また、この時の合成雨量データと、可視光カメラの情報を組み合わせることで、ガンマ線を放出していた雲を可視光カメラで捉えることに成功した。カメラには雲底高度の低い雲が移動する様子が映っており、雷雲ガンマ線を検出できる雲の特徴を理解するために重要な情報となる。