日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT44] 地球化学の最前線

2022年5月24日(火) 09:00 〜 10:30 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:羽場 麻希子(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、コンビーナ:小畑 元(東京大学大気海洋研究所海洋化学部門海洋無機化学分野)、コンビーナ:角野 浩史(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、コンビーナ:横山 哲也(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、座長:角野 浩史(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、羽場 麻希子(東京工業大学理学院地球惑星科学系)

09:00 〜 09:30

[MTT44-01] 三波川変成帯2億年史を読み解くための岩石年代学

★招待講演

*吉田 健太1仁木 創太2沢田 輝1大柳 良介4平田 岳史2、朝倉 顕爾3、平島 崇男3 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構、2.東京大学大学院理学研究科、3.京都大学地質学鉱物学教室、4.国士舘大学)

キーワード:三波川変成帯、先三波川変成作用、レーザーICP質量分析計

変成作用の年代は温度圧力推定に用いる鉱物を直接年代測定するのが理想だが,温度圧力推定と年代測定に適した鉱物は同じとならない事が多い.しかしながら,近年岩石学分野の温度圧力推定方法拡張や,地球化学分野の手法改良により,単一種の鉱物による温度圧力年代同時決定が出来るようになりつつある.本講演では,鉱物ごとに異なる温度圧力年代値を記録している例を用いて,複数のステージからなる変成履歴を解読した結果を紹介する.
西南日本に主として露出する三波川変成帯は,主に<85Maの中間型低温高圧変成作用を被ったジュラ紀堆積物由来の変成岩からなる(Aoya et al., 2013).変成帯主部の最高変成度部は600℃,1GPaの変成温度圧力を示し(Enami et al., 1994),四国中央部・東部の最高変成度部附近にはより高い圧力(~2GPa)を示すエクロジャイトユニットが存在している(Kouketsu et al., 2014).我々の研究グループでは,エクロジャイトユニット中の東五良津岩体から採取した変成炭酸塩岩から,三波川変成帯に於いては特異に長い期間に渡る変成履歴を読み出すことに成功した(Yoshida et al., 2021a, b; Niki et al., under review).研究に用いた変成炭酸塩岩は弱い片理を持ち,グロシュラー,ディオプサイド,方解石,石英と少量の鉄硫化物,チタン石,燐灰石からなる.基質部のグロシュラーはオンファス輝石とSiに富むフェンジャイト(O=11でSi~3.5)を含み,エクロジャイト相変成作用で形成されたと考えられる.基質部とは特徴が異なる,石英に富むQz-podが片理と調和的に存在しており,Qz-pod中のグロシュラーはほぼ純粋なグロシュラーからなり霰石を含むコアと,アンドラダイト成分が多く方解石を含むリムのパッチ状組織を呈する.
Qz-podからはエクロジャイト相変成作用と,それ以降の流体史が読み取れた.ザクロ石のグロシュラーコアと富アンドラダイトリムは,包有炭酸塩からエクロジャイト相変成作用からの上昇史を記録していると考えられ,リムに含まれるダトー石はリム形成時にホウ素に富む流体が作用したことを示唆する(Yoshida et al., 2021a).LA-ICP-MSによるグロシュラーのスポット年代測定法を新規に開発したことで,コア・リム年代をそれぞれ97 ± 10と106 ± 16 Maと決定することが出来た(Niki et al., under review).コアとリムが同等の年代値を示したことは,①流体を介した溶解再析出反応によってリムが形成した際にコアの同位体組成を一部引き継いでしまったか,②誤差が大きく両者の年代差を分離できていないことのいずれかである.コア年代の97±10 MaはWallis et al. (2009) が瀬場岩体・高越岩体のエクロジャイトから示したGrt-Cpx Lu-Hf年代と同等の値である.
他方,基質の鉱物からはより古い変成史を読み取れた(Yoshida et al., 2021b).基質チタン石とジルコンのLA-ICP-MSによるU-Pb年代は約200Maを示し,チタン石のZr濃度による温度推定と石英包有物による圧力推定の結果,対応する温度圧力条件として>1000℃,2.5GPaを得た.また,チタン石のリムからは126Maの年代値が得られ,リムの温度圧力条件は推定できなかったものの,これは初期三波川変成作用(Endo et al., 2009)に相当する年代値と考えられる.
200Maの「先三波川変成作用」は三波川変成帯で従来考えられていた変成作用よりも高温・高圧かつ古いものであり,炭酸塩岩が保持していたドライな条件によって保存されており,年代測定鉱物の消長は流体流入のイベント時にのみ生じていると考えられる.このような結果は,年代測定に用いた鉱物から直接温度圧力情報を読み出す事の重要性を示す.