日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ52] 地質と文化

2022年5月25日(水) 10:45 〜 12:15 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:鈴木 寿志(大谷大学)、コンビーナ:先山 徹(NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)、コンビーナ:川村 教一(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、座長:鈴木 寿志(大谷大学)、先山 徹(NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)、川村 教一(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)

11:45 〜 12:00

[MZZ52-05] 高知県三原村産「土佐硯」の地質学的な成り立ち:四万十帯南帯の埋没・熱的続成作用に基づく考察

朝山 航大1、*浦本 豪一郎1、中村 璃子1、中山 健1濱田 洋平2、壹岐 一也3、足達 真弥3谷川 亘2廣瀬 丈洋2 (1.高知大学、2.JAMSTEC、3.土佐硯石加工生産組合)

キーワード:硯、三原村、付加体、ラマン分光分析

硯は日本伝統工芸品の一つであり、かつて全国各地で生産されていた1.過去及び現在の生産地分布をみると,特に西南日本外帯では新生界の付加体の泥岩を材料に硯が生産されており1,これら地域の硯材の成り立ちに,共通した地質学的背景が存在することが示唆される.しかし,これまで硯材の地質学的性質を検討した例は限られ,地質学的プロセスの実体はわからない.本研究では,四国内で唯一,硯材の採石と「土佐硯」の生産が行われている高知県幡多郡三原村とその近隣の四万十帯南帯2を中心に,圧密や被熱等の続成過程から硯材の形成過程を検討することを目的に研究を行った.
三原村には始新統~漸新統の付加体の四万十帯南帯が北東-南西方向に広く分布する.土佐硯の母材は四万十帯南帯を構成する砂岩泥岩互層中の黒灰色の緻密な構造を持つ泥岩が用いられる.他方,本研究で地層形成の続成過程を検討するには,試料中に含まれる炭質物の分析が必要となるため,炭質物の探索が容易な砂岩を採取した.採取試料を一辺3 cm 未満の直方体状に切断加工した.岩石片を顕微レーザーラマン分光分析装置で炭質物を分析し,試料の最高被熱温度を推定した3
分析の結果,三原村を含む高知県西部の四万十帯南帯は244~406℃の被熱を受けていることが分かった.また,温度分布をマッピングすると,近隣の中期中新世に形成した花崗岩の分布域(大月町や土佐清水市)から三原村にかけて最高被熱温度が低下していることも分かった.この事は,古第三紀に四万十帯南帯が海底に堆積した後、中期中新世に海底地下で花崗岩形成に伴うマグマの発達によって、高知県西部一帯の四万十帯南帯の地熱が上昇し,熱変質によって地層が硬質化したを示唆する.
また,古第三紀の四万十帯南帯と中期中新世の花崗岩の形成年代から,高知県西部の四万十帯南帯は少なくとも1000万年以上,海底下での埋没に伴う圧密や,付加体形成に伴う圧密を受けたことが推定できる.すなわち四万十帯南帯の堆積後の圧密作用を受けた後,地下でマグマ上昇に伴う熱的作用の段階的なプロセスで硬化し、硯に適した泥岩となったことが考えられる.以上のような三原村を含む四万十帯南帯で認められた特徴は,西南日本外帯の新生界付加体を母材とする他の硯産地にも認められる。高知県室戸岬周辺や紀伊半島,九州南部にも硯材産地の近傍に火成岩が分布する2,5.圧密・熱変質の段階的な続成作用は,西南日本外帯の新生界における硯材形成の共通過程ということができる.
文献:1白野,1886, 硯材誌,2, 234–282; 2日本地質学会,2016, 日本地方地質誌7 四国地方. 708 p; 3Kouketsu et al., 2014, Island Arc, 23, 33–50; 4日本地質学会, 2009, 日本地方地質誌5 近畿地方. 453 p.; 5日本地質学会, 2010, 日本地方地質誌8 九州・沖縄地方. 619 p.