13:45 〜 15:15
[O08-P34] 琵琶湖におけるマイクロプラスチックの個体数密度と成分
キーワード:マイクロプラスチック、琵琶湖、ナイルレッド
1.はじめに
多くのプラスチックが河川から海洋に流出しており,社会問題化している。特に5mm以下のプラスチック(=マイクロプラスチック)に関しては,様々な機関が環境に及ぼす影響についての調査を行っている。海洋でのマイクロプラスチックの研究は進んでいるものの,湖や川での調査事例はあまり見られない。2019年3月より2020年6月まで10回にわたって日本最大の湖沼である琵琶湖でマイクロプラスチックの調査を行った。1.0mm以上のマイクロプラスチックが琵琶湖にも存在していることが確認できたものの,1.0mm以下のものは目視で観察することが非常に困難であった。またプラスチックの同定法にも課題を残した。本研究では,ナイルレッド染色法(Gabriel et al. 2017)を用いて琵琶湖におけるマイクロプラスチックの分析を行うことにより,北湖と南湖で見られる相違点や関係性を個体数密度と成分に重点を置き,報告する。
2.研究方法
採取は琵琶湖の北湖と南湖の2カ所で行った。調査はNPO法人びわ湖トラスト所有の実験調査船「はっけん号」上で行った。2019年の3月から2022年の3月まで計18回の調査を行った。処理方法は以下のとおりである。
・表層部の水1トンをエンジンポンプでポンプアップし,網目の大きさが異なった3つのふるい(5.6mm,1.0mm,100μm)を用いて濾過する(Cutroneo et al, 2020)。水量は,ホースに取り付けた流量計を用いて計測した。
・ふるいに残った採取物をピンセットで拾い出し,スクリュー管瓶(4㎖)に入れて記録・保存した。
・採取物はデジタルマイクロスコープを用いて観察し,付属のカメラで撮影した。
・ナイルレッド染色の下準備は、コンタミネーションを防ぐためクリーンベンチで行った。
・SPCフィルターホルダーセットにPCTEフィルター(25mm, PCTE 0.4㎛)を置き,真空ポンプで採取物を吸引濾過した。
・濾過後,ビーカーに残渣をフィルターごと入れ、20mlの過酸化水素水(35%)を加え,アルミホイルでふたをした。
・乾熱滅菌器に60℃(1時間),続いて100℃(7時間)で温めて残渣中の有機物を分解した。分解した後,さらに吸引濾過装置で濾過を行った。
・ナイルレッド(FUJIFILM)をメタノールに溶解し,1㎍ ㎖⁻¹の濃度にした(この染色液は光が当たらない場所で常温保管)。濾過後のPCTEフィルターをスライドガラスに乗せ,染色液を2〜3滴垂らした。
・新しいスライドガラスをフィルターに被せ,ズレが生じないようにスライドガラス同士をセロハンテープで固定した。さらに,もう一度乾熱滅菌器に入れて60℃(10分)暗礁状態で温めた。
・マイクロプラスチックの判別はLED:470nmLEDフィルター付蛍光顕微鏡(落射照明ユニット付)で行った。ナイルレッドで染色されたプラスチックは蛍光観察時に緑色に光るので,それを用いてマイクロプラスチックであるか判別し個数を計測した(図2)。
3. 結果と考察
北湖では南湖に比べて大型マイクロプラスチック(1.0mm以上)が約9倍見つかったのに対し,小型マイクロプラスチック(100㎛-1.0㎜)においては南湖が約2倍見つかった(表1)。
この調査を通じてマイクロプラスチックの量はその大きさによって違いが見られた。大きさと個数の関係性について以下のように考える。琵琶湖の北湖では3種類の環流が知られている(Kumagai et al, 1998)(図3)。琵琶湖に生じる環流によって,北湖・南湖におけるそれぞれの滞留時間は、北湖が5.5年,南湖が18日とされている(Aya et al, 2005)。滞留時間の長い北湖では多くの大型マイクロプラスチックが滞留し集中しやすくなるのではないかと考えられる。また、小型マイクロプラスチックについては,調査日を含んだ過去3日以内に毎秒10mを超える強風が吹いていた。このことから、浅い南湖で湖底泥が巻き上げられて,湖底に沈積したマイクロプラスチックの個体数が増加したのではないかと考えた。実際,南湖で細かい穴の空いたマイクロプラスチックが多く見られた(図4)。これは北湖から南湖へ流れる際に紫外線や波動の力等の物理的な過程によるものではないかと考えられる。
4. 結論
この研究を通してマイクロプラスチックが北湖で多く確認された要因として琵琶湖の環流や,滞留時間が関係していると結論づけた。今後はさらに正確なデータを得るために,より多くのサンプルを採取する必要がある。また,実際に環流の影響でマイクロプラスチックの個数が変化するか検証するために,北湖の複数地点で調査したいと考えている。
本研究ではナイルレッド染色法を用いることによって目視が困難であったものも,プラスチックであるかどうかを判別することができた。今後はマイクロプラスチックの組成を判別できる方法を考え,発生源と分布の関係性や比重などを調べていきたい。
多くのプラスチックが河川から海洋に流出しており,社会問題化している。特に5mm以下のプラスチック(=マイクロプラスチック)に関しては,様々な機関が環境に及ぼす影響についての調査を行っている。海洋でのマイクロプラスチックの研究は進んでいるものの,湖や川での調査事例はあまり見られない。2019年3月より2020年6月まで10回にわたって日本最大の湖沼である琵琶湖でマイクロプラスチックの調査を行った。1.0mm以上のマイクロプラスチックが琵琶湖にも存在していることが確認できたものの,1.0mm以下のものは目視で観察することが非常に困難であった。またプラスチックの同定法にも課題を残した。本研究では,ナイルレッド染色法(Gabriel et al. 2017)を用いて琵琶湖におけるマイクロプラスチックの分析を行うことにより,北湖と南湖で見られる相違点や関係性を個体数密度と成分に重点を置き,報告する。
2.研究方法
採取は琵琶湖の北湖と南湖の2カ所で行った。調査はNPO法人びわ湖トラスト所有の実験調査船「はっけん号」上で行った。2019年の3月から2022年の3月まで計18回の調査を行った。処理方法は以下のとおりである。
・表層部の水1トンをエンジンポンプでポンプアップし,網目の大きさが異なった3つのふるい(5.6mm,1.0mm,100μm)を用いて濾過する(Cutroneo et al, 2020)。水量は,ホースに取り付けた流量計を用いて計測した。
・ふるいに残った採取物をピンセットで拾い出し,スクリュー管瓶(4㎖)に入れて記録・保存した。
・採取物はデジタルマイクロスコープを用いて観察し,付属のカメラで撮影した。
・ナイルレッド染色の下準備は、コンタミネーションを防ぐためクリーンベンチで行った。
・SPCフィルターホルダーセットにPCTEフィルター(25mm, PCTE 0.4㎛)を置き,真空ポンプで採取物を吸引濾過した。
・濾過後,ビーカーに残渣をフィルターごと入れ、20mlの過酸化水素水(35%)を加え,アルミホイルでふたをした。
・乾熱滅菌器に60℃(1時間),続いて100℃(7時間)で温めて残渣中の有機物を分解した。分解した後,さらに吸引濾過装置で濾過を行った。
・ナイルレッド(FUJIFILM)をメタノールに溶解し,1㎍ ㎖⁻¹の濃度にした(この染色液は光が当たらない場所で常温保管)。濾過後のPCTEフィルターをスライドガラスに乗せ,染色液を2〜3滴垂らした。
・新しいスライドガラスをフィルターに被せ,ズレが生じないようにスライドガラス同士をセロハンテープで固定した。さらに,もう一度乾熱滅菌器に入れて60℃(10分)暗礁状態で温めた。
・マイクロプラスチックの判別はLED:470nmLEDフィルター付蛍光顕微鏡(落射照明ユニット付)で行った。ナイルレッドで染色されたプラスチックは蛍光観察時に緑色に光るので,それを用いてマイクロプラスチックであるか判別し個数を計測した(図2)。
3. 結果と考察
北湖では南湖に比べて大型マイクロプラスチック(1.0mm以上)が約9倍見つかったのに対し,小型マイクロプラスチック(100㎛-1.0㎜)においては南湖が約2倍見つかった(表1)。
この調査を通じてマイクロプラスチックの量はその大きさによって違いが見られた。大きさと個数の関係性について以下のように考える。琵琶湖の北湖では3種類の環流が知られている(Kumagai et al, 1998)(図3)。琵琶湖に生じる環流によって,北湖・南湖におけるそれぞれの滞留時間は、北湖が5.5年,南湖が18日とされている(Aya et al, 2005)。滞留時間の長い北湖では多くの大型マイクロプラスチックが滞留し集中しやすくなるのではないかと考えられる。また、小型マイクロプラスチックについては,調査日を含んだ過去3日以内に毎秒10mを超える強風が吹いていた。このことから、浅い南湖で湖底泥が巻き上げられて,湖底に沈積したマイクロプラスチックの個体数が増加したのではないかと考えた。実際,南湖で細かい穴の空いたマイクロプラスチックが多く見られた(図4)。これは北湖から南湖へ流れる際に紫外線や波動の力等の物理的な過程によるものではないかと考えられる。
4. 結論
この研究を通してマイクロプラスチックが北湖で多く確認された要因として琵琶湖の環流や,滞留時間が関係していると結論づけた。今後はさらに正確なデータを得るために,より多くのサンプルを採取する必要がある。また,実際に環流の影響でマイクロプラスチックの個数が変化するか検証するために,北湖の複数地点で調査したいと考えている。
本研究ではナイルレッド染色法を用いることによって目視が困難であったものも,プラスチックであるかどうかを判別することができた。今後はマイクロプラスチックの組成を判別できる方法を考え,発生源と分布の関係性や比重などを調べていきたい。