日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG20] 宇宙における物質の形成と進化

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (5) (Ch.05)

コンビーナ:大坪 貴文(自然科学研究機構 国立天文台)、コンビーナ:野村 英子(国立天文台 科学研究部)、瀧川 晶(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、コンビーナ:荒川 創太(国立天文台)、座長:荒川 創太(国立天文台)


11:00 〜 13:00

[PCG20-P01] 原始太陽系円盤における非晶質ケイ酸塩ダストの酸素同位体交換と結晶化: モンテカルロシミュレーション

*石﨑 梨理1山本 大貴2橘 省吾2,3 (1.東京大学大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻、2.宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所、3.東京大学大学院理学系研究科 宇宙惑星科学機構)


キーワード:原始惑星系円盤、数値計算、非晶質ケイ酸塩、結晶化、同位体交換反応

地球や隕石の材料となったケイ酸塩ダストは、太陽系の原材料となったケイ酸塩ダストに比べ16Oに乏しい酸素同位体組成を持っていた可能性がある (e.g., McKeegan et al., 2011; Yurimoto et al., 2008)。この酸素同位体組成の違いは、16Oに富む始原的ケイ酸塩ダストが、CO自己遮蔽効果により16Oに乏しくなった円盤H2Oガスと同位体交換をおこなったことを示唆する (Yurimoto & Kuramoto, 2004)。Yamamoto et al. (2018, 2019) では始原的隕石中に認められる非晶質ケイ酸塩ダストとH2Oガスとの酸素同位体交換実験をおこない、非晶質ケイ酸塩構造内の拡散過程に律速された同位体交換の速度を決定した。得られた同位体交換速度は、結晶ケイ酸塩内の酸素同位体拡散速度に比べ圧倒的に速く、非晶質ケイ酸塩ダストが結晶化を起こすことで酸素同位体交換反応が阻害される可能性も示された。すなわち、現在の地球や隕石の酸素同位体組成を実現するには、原始太陽系円盤において非晶質ケイ酸塩の同位体交換反応が結晶化反応よりも早く進行する必要がある。この条件から原始太陽系円盤の円盤環境を制約できる可能性があるため、両反応の競合を調べることは円盤進化を理解する上で重要である。

原始惑星系円盤におけるダストの結晶化を扱う研究の多くでは、ダストがある温度を超えると直ちに結晶化すると仮定し、それを越え主星に近付くと結晶化する「アニーリングライン」を設定している (e.g., Gail, 2001; Dullemond et al., 2006)。Ciesla (2011) は、低温環境での長時間加熱による非晶質ケイ酸塩結晶化への効果を検討するために、結晶化速度を導入し、乱流円盤を動径方向に移動する非晶質ケイ酸塩ダスト結晶化のモンテカルロシミュレーションをおこなった。鉛直方向に等温の定常円盤においてダスト粒子は完全な非晶質または結晶質に二極化することを示し、アニーリングラインを設定することの妥当性が支持された (Ciesla, 2011)。しかし、酸素同位体交換反応についてこのような議論はおこなわれていない。本研究では、鉛直方向に温度構造を持ち、ダストの経験する温度の時間変化が短時間で起こる円盤鉛直方向のダスト移動において酸素同位体交換反応と結晶化反応の競合を調べることを目的とした。

Ciesla (2010) のモデルに倣い、主星からの距離が1 auの領域について、円盤内を乱流で移動するダスト粒子の鉛直方向の軌跡を計算するモンテカルロシミュレーションをおこなった。静水圧平衡を仮定したガス密度分布 ρg(z)=(Σ/(√(2π)H)exp(-z2/2H2) を与え(Σはガス面密度、Hは円盤スケールハイト)、ガス密度に比例した粘性加熱を熱源とする温度分布を設定した。ダスト直径は80 nmとし、ガスとよく馴染んでいるとした (ρdg=const.)。ダストの出発位置を中心面で統一したCiesla (2010) とは異なり、平均位置z=0、標準偏差σ=Hのガウス分布によってランダムに決定した。アルファ粘性モデルを採用し、乱流粘性係数αについては α=10-2、10-4 の2通りの計算をおこなった。

取得した各粒子の鉛直方向の軌跡を用いて、結晶化及び酸素同位体交換反応の時間発展をそれぞれ計算した。各反応の進行はアブラミ式に対応する反応速度式を用い (反応率 X=1-exp[-(t/τ)n]) 、係数τ、nに関しては、結晶化速度はYamamoto & Tachibana (2018)の低圧下でのデータを用い、酸素同位体交換反応はYamamoto et al. (2018) の拡散律速反応速度を上記の式で近似し求めた。

シミュレーションの結果、乱流粘性が大きいほどダスト粒子が短時間で鉛直方向に動き回ることで、各粒子が経験する温度条件が平均化されるため、同位体交換反応、結晶化反応の双方について、反応が画一的に進行する傾向が見られた。乱流粘性が小さい場合は、粒子が経験する温度のばらつきに対応し、比較的大きな反応程度のばらつきが見られた。これらの結果はCiesla (2010) の結果とも整合的である。両反応の程度の比較について、円盤中心面温度Tc<~800 Kの場合、同位体交換反応のタイムスケールが結晶化に比べ十分短く、競合せずに同位体交換が完了する。一方、円盤が高温になると両反応ともタイムスケールが短くなり、競合はごく限られた状況でのみ起こる。発表では、動径方向の粘性降着も考慮した簡易的なモデルでの計算結果も報告する。