日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM12] 太陽地球系結合過程の研究基盤形成

2022年6月3日(金) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (5) (Ch.05)

コンビーナ:山本 衛(京都大学生存圏研究所)、コンビーナ:小川 泰信(国立極地研究所)、野澤 悟徳(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、コンビーナ:吉川 顕正(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、座長:山本 衛(京都大学生存圏研究所)、小川 泰信(国立極地研究所)、野澤 悟徳(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、吉川 顕正(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

11:00 〜 13:00

[PEM12-P11] 航空航法用 ILS 遠距離伝搬波を用いた Es 下部構造の観測

*田淵 駿平1細川 敬祐1斎藤 享2坂井 純3、冨澤 一郎3高橋 透2中田 裕之4 (1.電気通信大学大学院情報理工学研究科、2.国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所電子航法研究所、3.電気通信大学宇宙・電磁環境研究センター、4.千葉大学大学院工学研究院)


キーワード:スポラディック E 層

スポラディック E (Es) 層は, 電離圏の高度約 100 km において局所的に電子密度が増大する現象である. 通常, 100 MHz を超える VHF 帯の電波が電離圏で反射されることはないが, Es 層によってこれらの電波が反射されることがある. Es 層によって反射された電波は, 長距離にわたって異常伝搬し, 航空航法システムなどの無線システムに電波干渉を引き起こす可能性がある. Es 層の研究は古くから行われており, その鉛直構造についての理解が進んでいる. 近年, Es 層の空間構造によるものと思われる異常伝搬が観測され, 鉛直方向だけでなく, 水平方向の構造とそれによる電波伝搬への影響を理解することが求められている. 本研究では, 異常伝搬のイベント時の ROTI マップを使って Es 層の水平構造を推定し, Es 層の空間構造が航空航法用電波の伝搬に与える影響について明らかにすることを目的とした.
航空航法用電波は, 108-118 MHz の周波数帯を使用して航空機への情報提供を行うために用いられている.本研究で着目する計器着陸装置 ローカライザー (Instrument Landing System Localizer: ILS LOC) は, 108-112 MHz の電波を航空機から見て左側に 90 Hz, 右側に 150 Hz で振幅変調し, 変調度の差 (Difference in Depth of Modulation: DDM) により, 進入コースに関する情報を提供している. 出力される電波は, 強い指向性を持つためEs による反射で長距離にわたる異常伝搬が生じる可能性がある. 著者らのグループの最近の研究によって, ソフトウェア受信機を使用して, 日本の広島県呉市において台湾の花蓮空港の計器着陸装置から送信されたと考えられる 110.3 MHz の電波の受信事例が報告されている. 本研究では, ソフトウェア受信機に加えて航空機搭載用 ILS LOC 受信機を広島県呉市に設置し, 電波の到来方向を連続的に計測した.
2021 年 5 月 17 日に発生した Es 層による異常伝搬イベントでは, ILS LOC 受信機においても 110.3 MHz の電波が受信された. DDM から算出される観測点の ILS ビーム方向との偏位の角度や音声のモールス信号から, 電波が花蓮より到来したことが確認された. しかし, 2021 年 5 月から 8 月の期間に ILS LOC 受信機によって得られた 110.3 MHz の電波の到来方向を統計的に解析した結果, 呉から見た実際の花蓮の方向 (-0.68 度) とは少し異なる値 (-0.48 度) が最頻値として得られた. この原因として, Es 層の伝搬方向や空間構造によって, 花蓮空港 ILS LOC電波の伝搬に変化が起こっている事が考えられる.
上記の解析に加えて, 異常伝搬発生時の Es の空間構造を把握するために, GPS 受信機によって得られた電離圏全電子数の変動成分 (ROTI) との比較も行った. 異常伝搬波の反射点であると考えられている呉市と花蓮の中間点は海上にある. そのため, 小規模な Es の場合は, ROTI によってその Es の発生や伝搬方向が確認できない事がある. しかし, 2021 年 5 月 27 日, 6 月 8 日, 6 月 30 日の 3 例においては, Es が本州から九州の南部に向かって南西方向に移動している様子が確認された. これは, これらの異常伝搬事例が Es による反射によって起こっていることを示す結果である.
また, DDM の値から算出した偏位角の変動について着目すると, 異常伝搬が発生したときに, 偏位角は常に一定の値を示しているわけではなく, 系統的な値の変動が見られる. 特に 2021 年 6 月 30 日の異常伝搬事例においては, 約 30 分にわたって偏位角が約 にわたって連続的に減少するという特徴的な変化が観測された. ROTI のマッピングから考えられる Es の移動方向と偏位角の変化から, くさび形の Es が反射点を横切って移動したときに, このような偏位角の連続的な変化を説明できる. このような Es の空間構造が, 偏位角のピークが僅かに に近づく結果の原因となった可能性がある. これらの結果は, ILS LOC 受信機の DDM の値から算出した偏位角の変化によって, Es の動きや構造が推測できることを示唆する. 今後は, 他の異常伝搬事例についてもこのモデルが適用可能であるかを検討する予定である.