日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS04] 火星と火星衛星

2022年5月23日(月) 13:45 〜 15:15 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:宮本 英昭(東京大学)、コンビーナ:今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)、中村 智樹(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、コンビーナ:玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)、座長:倉本 圭(北海道大学大学院理学院宇宙理学専攻)、松本 晃治(国立天文台RISE月惑星探査プロジェクト)、中村 智樹(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)、宮本 英昭(東京大学)

14:00 〜 14:15

[PPS04-02] 宇宙物質の組成データベースを用いたMMX MEGANEデータの多変量解析によるフォボスの起源の制約

★招待講演

*平田 佳織1,2臼井 寛裕2兵頭 龍樹2玄田 英典3深井 稜汰2、Lawrence David4、Chabot Nancy4、Peplowski Patrick4草野 広樹5 (1.東京大学、2.JAXA 宇宙科学研究所、3.東京工業大学 地球生命研究所、4.Johns Hopkins University applied Physics Laboratory、5.量子科学技術研究開発機構)


キーワード:火星衛星、形成仮説、元素組成、多変量解析、ガンマ線中性子線分光法

2つの火星衛星(フォボスとダイモス)の形成過程は明らかになっておらず、2つの対立する仮説の間で未だ議論が続いている:火星重力による小惑星捕獲説[1など]と巨大衝突により形成される円盤物質からのその場形成説(衝突説)[2など]である。火星衛星探査計画(MMX)はリモート観測とリターンサンプルの分析による火星衛星と火星系の形成進化過程の解明を目指している[3,4,5など]。MMXにはフォボスの元素組成を測定するガンマ線中性子線分光計MEGANEが搭載される[6]。本研究は、宇宙物質の元素組成データベースを用いた多変量解析によって形成仮説を決定するためのMEGANEデータの解析手法を提供することを目的とする。
フォボスのバルク組成を火星物質と小惑星物質の二成分の混合により表現する混合モデルを構築した。端成分組成はバルクシリケイト火星[7]とコンドライトサブグループ[8,9]を仮定した。MEGANEで測定可能な6つの親石元素の存在度(wt. %)を用いて計算を行った。あるフォボス組成とあるコンドライト組成に対してMEGANEの観測誤差(EP)と組成バリエーションを仮定した混合率を計算し、その値に基づいて形成仮説を判別した。形成仮説がどの程度判別されるかを定量化する指標として判別効率を定義し、モデルのパラメータ依存性を評価した。
本モデルはMEGANEデータと形成仮説の関係を6元素組成空間中で可視化する。衝突説においてフォボスが火星物質(50%)と小惑星物質(50%)から構成されると仮定すると[10]、最低でも(EP =30%)組成領域の65%で形成仮説が唯一に決定される。観測誤差EPが20%から10%へ減少すると判別効率は74%から87%へ向上する。衝突説に対応する混合率の判断基準を30-70%と保守的に設定した場合、判別効率の挙動は大きく変化しない。判別効率は、MEGANEの観測計画(蓄積時間や軌道高度など)により決定される観測誤差EPに依存する。MEGANEの機器性能とMMXの初期運用計画からは20-30%の観測誤差が予測されており[6]、この場合判別効率は70%程度になる。本モデルと解析手法を用いると、捕獲/衝突小惑星のコンドライトサブグループが決定できる可能性がある。予測されるMEGANEの観測誤差を仮定すると、組成領域の約30%で小惑星の種類が唯一に決定される。
MEGANEは中揮発性元素の存在度も測定する。計算にKの元素存在度を加えると、判別効率は5-10%向上する。衝突説では揮発性物質が衝突円盤から選択的に失われた可能性が示唆されており[11]、形成仮説の決定に揮発性元素存在度を用いることは難しいが、MEGANEにより測定される揮発性元素存在度を用いて円盤物質からの脱ガス率を推定できる可能性がある。

[1] Burns, 1992, Mars, 1283-1301. [2] Rosenblatt+, 2016, Nat. Geosci., 9(8), 581-583. [3] Kuramoto+, 2021, Earth Planet. Space, 74, 12. [4] Nakamura+, 2021, Earth Planet. Space, 73, 227. [5] Usui+, 2020, Space Sci. Rev., 216, 49. [6] Lawrence+, 2019, Earth Space Sci., 6, 2605-2623. [7] Taylor, 2013, Chemie der Erde, 73, 401-420. [8] Alexander, 2019b, Geochim. Cosmochim. Acta, 254, 277-309. [9] Alexander, 2019a, Geochim. Cosmochim. Acta, 254, 246-276. [10] Hyodo+, 2017, Astrophys. J., 845(2), 125. [11] Hyodo+, 2018, Astrophys. J., 860(2), 150.