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[PPS08-08] 小惑星リュウグウ試料から見つかった特異的な炭素質物質と同位元素分布
キーワード:小惑星リュウグウ、探査機はやぶさ2、同位体顕微鏡、同位体分布、軽元素分布、炭素質物質
探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウから持ち帰った試料を分析することで、生命の起源を解明することが期待されている [1] 。我々は、同位体顕微鏡という独自の分析装置 [2] を用いて、有機物を構成する水素や炭素、窒素を含む元素および同位体組成の二次元分布を広範囲かつ高精度にイメージングした。本発表では、リュウグウ試料から見つかった特異的な物質と同位元素分布に関する予察的結果を報告する。
試料は、小惑星リュウグウの異なる場所から採取し A0058-C1001、C0002-C1001と名付けられた岩石試料から作成した2つの研磨切片を用いた。同位元素イメージングには、北海道大学の同位体顕微鏡を用いた [2]。分析する同位元素の正イオン、負イオンのなりやすさに応じて2つの異なる分析条件を用いた。特筆すべき条件は [3] に記してある。取得した同位元素イオンは、1H+, 7Li+, 11B+, 23Na+, 24Mg+, 27Al+, 28Si+, 39K+, 40Ca+, 56Fe+ および 1H−, 12C−, 13C−, 12C14N−, 12C15N−, 16O−, 17O−, 18O−, 19F−, 28Si−, 31P−, 32S−, 35Cl− である。それぞれの条件で合計384,000 µm2、 330,000 µm2 の範囲から上記の同位元素イメージを得た。
リュウグウ試料は全体に炭素質な物質を多く含み、6×10ミクロンほどの窒素に富む大きな炭素質物質のかたまり(Fig. 1a)や炭素の安定同位体のうち13Cだけを多く含む大きさ150ナノメートルほどのSiC粒子(Fig. 1b)、窒素同位体15Nに富む炭素質粒子(Fig. 1c)の他、水素やホウ素に富む粒子などを多数発見した(Fig. 1d)。また、A0058-C1001は外縁をナトリウムに富む層に取り囲まれていることが分かった(Fig. 1d)。岩石学的観察から、リュウグウ試料は大まかに白い部分、黒い部分およびそれらの間の部分に分けられた。白い部分では、15Nに富む炭素質粒子が特異的に多く見つかった。そのうち最大のものをFig.1aに示した。黒い部分は、周囲に比べて炭素に富んでいた(Fig. 1e 12C-)。さらに、フッ素に濃集した領域が点在することが分かり、塩素の分布と逆相関であった。
本研究で発見した地球の有機物と異なる同位体組成を持つ物質は、小惑星リュウグウの集積過程において均質化を免れた炭素質物質が存在することを明確に示している。13Cに富むSiC粒子は、太陽系では合成できないため [4]、太陽系以外の星から飛来して小惑星リュウグウに混ざったと考えられる。不均質な化学組成分布からは、それらの始原的物質がリュウグウ母天体上でどのようにして生き残ったかという情報を得られることが期待される。
References: [1] Tachibana (2021) In Sample Return Missions (Ed. A. Longobardo), Elsevier, pp 147–162. [2] Yurimoto et al. (2003) Appl. Surf. Sci. 203–204, 793–797. [3] Tagawa et al. (2021) Nat. Commun. 12, #2588. [4] Zinner (2014) In Treatise on Geochemistry(2nd ed.) (Ed. H. D. Holland, K. K. Turekian, A. M. Davis), Elsevier, Oxford, pp. 181–213.
Fig. 1 (a) 小惑星リュウグウ試料C0002-C1001から見つかった窒素に富む炭素質物質の電子顕微鏡写真(BSE)。(b) 13Cに富む(δ13C ~ +4,000‰)SiC粒子の炭素同位体イメージとBSE像、および酸素、シリコンのX線元素マップ。 (c) 15Nに富む(δ15N ~ +700‰)炭素質粒子の窒素同位体イメージとBSE像。 (d) A0058-C1001の水素、ホウ素、ナトリウム同位元素イメージとBSE像。 (e) 異なる岩相から構成されるC0002-C1001のBSE像。
試料は、小惑星リュウグウの異なる場所から採取し A0058-C1001、C0002-C1001と名付けられた岩石試料から作成した2つの研磨切片を用いた。同位元素イメージングには、北海道大学の同位体顕微鏡を用いた [2]。分析する同位元素の正イオン、負イオンのなりやすさに応じて2つの異なる分析条件を用いた。特筆すべき条件は [3] に記してある。取得した同位元素イオンは、1H+, 7Li+, 11B+, 23Na+, 24Mg+, 27Al+, 28Si+, 39K+, 40Ca+, 56Fe+ および 1H−, 12C−, 13C−, 12C14N−, 12C15N−, 16O−, 17O−, 18O−, 19F−, 28Si−, 31P−, 32S−, 35Cl− である。それぞれの条件で合計384,000 µm2、 330,000 µm2 の範囲から上記の同位元素イメージを得た。
リュウグウ試料は全体に炭素質な物質を多く含み、6×10ミクロンほどの窒素に富む大きな炭素質物質のかたまり(Fig. 1a)や炭素の安定同位体のうち13Cだけを多く含む大きさ150ナノメートルほどのSiC粒子(Fig. 1b)、窒素同位体15Nに富む炭素質粒子(Fig. 1c)の他、水素やホウ素に富む粒子などを多数発見した(Fig. 1d)。また、A0058-C1001は外縁をナトリウムに富む層に取り囲まれていることが分かった(Fig. 1d)。岩石学的観察から、リュウグウ試料は大まかに白い部分、黒い部分およびそれらの間の部分に分けられた。白い部分では、15Nに富む炭素質粒子が特異的に多く見つかった。そのうち最大のものをFig.1aに示した。黒い部分は、周囲に比べて炭素に富んでいた(Fig. 1e 12C-)。さらに、フッ素に濃集した領域が点在することが分かり、塩素の分布と逆相関であった。
本研究で発見した地球の有機物と異なる同位体組成を持つ物質は、小惑星リュウグウの集積過程において均質化を免れた炭素質物質が存在することを明確に示している。13Cに富むSiC粒子は、太陽系では合成できないため [4]、太陽系以外の星から飛来して小惑星リュウグウに混ざったと考えられる。不均質な化学組成分布からは、それらの始原的物質がリュウグウ母天体上でどのようにして生き残ったかという情報を得られることが期待される。
References: [1] Tachibana (2021) In Sample Return Missions (Ed. A. Longobardo), Elsevier, pp 147–162. [2] Yurimoto et al. (2003) Appl. Surf. Sci. 203–204, 793–797. [3] Tagawa et al. (2021) Nat. Commun. 12, #2588. [4] Zinner (2014) In Treatise on Geochemistry(2nd ed.) (Ed. H. D. Holland, K. K. Turekian, A. M. Davis), Elsevier, Oxford, pp. 181–213.
Fig. 1 (a) 小惑星リュウグウ試料C0002-C1001から見つかった窒素に富む炭素質物質の電子顕微鏡写真(BSE)。(b) 13Cに富む(δ13C ~ +4,000‰)SiC粒子の炭素同位体イメージとBSE像、および酸素、シリコンのX線元素マップ。 (c) 15Nに富む(δ15N ~ +700‰)炭素質粒子の窒素同位体イメージとBSE像。 (d) A0058-C1001の水素、ホウ素、ナトリウム同位元素イメージとBSE像。 (e) 異なる岩相から構成されるC0002-C1001のBSE像。