日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG44] Science of slow-to-fast earthquakes

2022年5月26日(木) 13:45 〜 15:15 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:加藤 愛太郎(東京大学地震研究所)、コンビーナ:田中 愛幸(東京大学理学系研究科)、山口 飛鳥(東京大学大気海洋研究所)、コンビーナ:波多野 恭弘(大阪大学理学研究科)、座長:加藤 愛太郎(東京大学地震研究所)、馬場 慧(東京大学地震研究所)

14:15 〜 14:30

[SCG44-03] 2003年十勝沖地震後の震源近傍における長期的なテクトニック微動活動

川久保 晋1、*東 龍介1日野 亮太1高橋 秀暢2太田 和晃3篠原 雅尚4 (1.東北大学大学院理学研究科地震・噴火予知研究観測センター、2.電力中央研究所、3.防災科学技術研究所、4.東京大学地震研究所)

キーワード:テクトニック微動、海底地震計、エンベロープ相関法、2003年十勝沖地震

沈み込み帯におけるプレート境界で発生する巨大地震とスロー地震の相互作用を理解するうえで,スロー地震の一種であるテクトニック微動の巨大地震発生後における活動の推移は重要な情報となりうるが,これに関する研究事例は少ない.そこで,本研究では2003年十勝沖地震(Mw 8.0)の震源域とテクトニック微動の発生域が隣り合う日本海溝-千島海溝会合部において,巨大地震発生が微動活動に及ぼす影響の解明を目指した.
 本研究では会合部周辺で海底地震計によって実施された2003年十勝沖地震直後の余震観測 (2003/10/1–2003/11/20) とその3年後の長期観測 (2006/10/25–2007/6/5) の2期間の観測データを解析対象とし,連続波形記録にエンベロープ相関法を適用して微動の検出を試みた.検出したイベントのうち,継続時間20秒以上,震央誤差5 km以内,時間残差3秒以内の条件を満たすイベントを微動候補とみなし,波形とランニングスペクトル(RS)に基づき目視で微動判定を行った。2006–2007年データでは全候補イベントに対する目視判別により,960個の微動を検出した.2003年十勝沖地震余震観測データでは,Nishikawa et al. (2019) による微動発生帯に分布するイベントの波形とRSが微動の特徴を示すことから,その領域に分布する363個の微動を検出した.
 2006–2007年には,①2006年11月,②2007年3月,③2007年5月の3度にわたって顕著な微動活動が見られた.活動①は後述の活動②の南方に分布するが,この時期は南半分の観測点しか稼働しておらず,より北側の微動活動を検知できなかった可能性が高い.活動②は微動の継続的な活動が観測され,微動震源が北東方向に10 km/day,南西方向に25km/dayで移動する様子が見られた.活動③では5月10日に集中的な活動が見られ,その後は散発的な活動で収束した.これらの他に,小規模なクラスター的な活動が3つの活動の西側で5回発生した.2003年の余震観測データから検出した微動は,観測期間の前半には散発的な活動を示す一方で,後半には数時間から1日程度に集中して微動が発生するバースト的な活動が,1~2日程度の間隔で繰り返しながら3週間ほど続いた.
 以上2回の観測データから検出した微動と2016–2018年のS-net観測による微動カタログ (Nishikawa et al., 2019) の時空間的特徴の比較から,興味深い共通点と相違点が見られた.まず,2006–2007年に発生した微動のうち,活動②が示す震源移動の開始場所,移動の方向,移動速度のいずれも,2016年以降の大規模な微動活動の際に観測されたものとおおむね一致する.活動③は狭い範囲に微動の発生が限定されているが,2016年以降にも見つかっている中規模の微動活動に対応すると考えられる.活動①の微動発生範囲は観測点分布の制約から北限を制約することができなかったが,同期して発生したVLFEの活動範囲から,検出した微動分布よりさらに北側に広がっていた可能性があり,S-net期の大規模活動に匹敵する活動と思われる.大規模活動同士の活動間隔と中規模活動を含めた活動間隔を比べると、2006–2007年にはそれぞれ4ヶ月と2ヶ月であるのに対し,2016年以降では8–11ヶ月と3–7ヶ月と長い傾向がある.一方で,2003年にみられた微動のバースト発生は2016年以降には1ヶ月半から半年の間隔で繰り返し観測されているが,その活動継続期間は数日程度であり,2003年の3週間に比べて非常に短い.
以上のように,本研究で検出した微動と2016年以降の微動カタログとの間には似た特徴が複数見られた一方で,2003年からの時間が経過するにつれて,微動の活動間隔が長くなる,あるいは1回の活動継続時間が短くなる,といった変化が見られた.これらの原因には,2003年十勝沖地震による余効すべりの影響が挙げられる.本研究が対象とする微動活動域はこの余効すべり域の範囲内にあり,そこでのプレート間すべり速度は十勝沖地震直後から徐々に減衰していった (Itoh et al., 2018).そうしたすべり速度の違いが,2003年の余震観測期や2006–2007年と2016年以降との活動様式の違いを生じたと解釈した.2016年以降では余効すべりがほぼ停止して定常状態に戻っていると考えると,2003年や2006–2007年の微動活動の特徴は,定常状態より速いすべり速度を反映したものと考えられる.本研究により,巨大地震の発生はその後の震源近傍での微動活動に大きな影響を及ぼし,時間の経過とともに微動活動は定常的な状態に遷移していく過程が捉えられたといえる.