日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG44] Science of slow-to-fast earthquakes

2022年6月3日(金) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (23) (Ch.23)

コンビーナ:加藤 愛太郎(東京大学地震研究所)、コンビーナ:田中 愛幸(東京大学理学系研究科)、山口 飛鳥(東京大学大気海洋研究所)、コンビーナ:波多野 恭弘(大阪大学理学研究科)、座長:永冶 方敬(東京大学大学院理学系研究科)、Anca Opris(Research and Development Center for Earthquake and Tsunami Forecasting)

11:00 〜 13:00

[SCG44-P19] 紀伊半島下の微動マイグレーションに関する3つの異なるスケーリング則

*寒河江 皓大1中原 恒1西村 太志1今西 和俊2 (1.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座、2.産業技術総合研究所)

キーワード:スケーリング則、深部テクトニック微動、微動マイグレーション、紀伊半島

スロー地震現象には継続時間が100秒から1日の間に大きな観測のギャップ域が存在する. いくつかの先行研究によりこのギャップ域で起きている現象の特徴を調べる試みが行われてきたが (e.g. Bletery et al., 2017; Aiken and Obara, 2021), そこでのスケーリング則はいまだ明らかでない. 継続時間が数分から数日で1000 km/day から 10 km/day の速度で移動する微動マイグレーションを調べる場合, ETSを仮定することで, スロー地震の観測のギャップ域を埋めることができる可能性がある (Bletery et al., 2017). そこで本研究では, 紀伊半島下の微動マイグレーションの地震波エネルギー, 継続時間, そして断層面積を推定し, 3つのパラメータ間のスケーリング則を調べた. 特に微動マイグレーションの背後にある破壊過程を理解するために, 断層面積の時間発展に着目することが重要であることを示す.

本研究では, 時空間ハフ変換 (Sagae et al., 2021, JpGU) を用いて客観的に抽出された継続時間が10分から24時間の微動マイグレーションを使用した. 微動マイグレーションを構成する微動に対して2–8 Hz における積算エネルギー (E) を計算するとともに, 微動震源の空間分布から凸包 (de Berg et al., 2008) を用いて断層面積 (A) を推定した. さらに, 産総研-SSE カタログ(e.g. Itaba and Ando 2011) にある短期的SSE の地震モーメントとそれに対応する微動の積算エネルギーの比として規格化エネルギーを計算し, 8個のSSEについての規格化エネルギーの平均値 ( 1.3410-10 ) を得た. 以降, 規格化エネルギーの平均値は, 地震波エネルギーを地震モーメントに変換するために使用した.

観測結果からは, 地震波エネルギー (E), 断層面積 (A), 継続時間 (T) との間にはスケーリング則の折れ曲がりなど複雑な関係があることがわかった. このような複雑なスケーリング則を理解するために, 物理的な解釈に基づくスケーリング則に関する3つのモデルの提案した. いずれのモデルについても規格化エネルギーが一定であることと応力降下量が一定であることを仮定すると, 一つ目は断層面積が幾何学的な制限なく拡散的に成長する場合であり, EA1.5, AT, そしてET1.5のスケーリング則が成り立つ. 二つ目は断層幅が幾何学的に制限された状態で断層面積が拡散的に成長する場合であり, EA2, AT0.5, そしてET のスケーリング則が成り立つ. 最後は, マイグレーション速度が10 km/hr 以上と高速な現象で成り立つ, 破壊伝播速度が一定のモデルである. このモデルでは, EA1.5, AT2, そしてET3という通常地震と同じスケーリング則が成り立つ.

観測結果と提案したモデルを比較するために, 断層幅やマイグレーション速度などの微細構造を考慮することで, 微動マイグレーションの場合分けを行った. そして, log10E, log10A, and log10T を用いた3次元の主成分分析により, EA, AT, ETとの間に成り立つスケーリング則のべきの指数を推定した. 推定された結果は, スケーリング則は提案したモデルと誤差の範囲 (2σ) で一致した. これは, 本研究で提案したモデルに基づく場合わけの適切さを示すものである. 特に, 一つ目と二つ目のスケーリング則に関するモデルは本研究で新たに提案するものであり, 微動マイグレーションの背後に非常に小さいが規模によらず一定の応力降下量 (2­–235 kPa) をもち, かつ, 拡散的に破壊が成長するという物理過程の存在が示唆された. また, 複雑なスケーリング則を理解するうえで, ATの関係から断層面積がどのような成長過程に従っているかを調べることが重要であることがわかった.