日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG48] 海洋底地球科学

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (19) (Ch.19)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、コンビーナ:田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、座長:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)

11:00 〜 13:00

[SCG48-P01] 薩摩硫黄島長浜湾における水酸化鉄の挙動について

*小島 陸1清川 昌一1堀 航喜1大岩根 尚2井口 祐輔1 (1.九州大学、2.合同会社むすひ)

鉄質堆積物は,現在では酸化還元が急変するような鉱山排水や湿地帯,低温熱水が循環する海底などの限られた場所でのみ見られる沼鉄,鉄層が知られている(eg. Afify et al., 2015).また,最も広く分布する縞状鉄鉱層は,25億年前,18億年前,7億年前ごろの限られた時代に形成しており,その堆積作用については先カンブリア時代の地球表層状態を示す指標と考えられている(eg. Becker et al., 2014).しかし,これらの堆積物を形成する際,水中での水酸化鉄の析出や沈殿にいたる水酸化鉄コロイドの挙動について,不明な部分が多い.
薩摩硫黄島の長浜湾では常にオレンジ色をした水酸化鉄がコロイド状態で漂う海水で満たされており,湾内の海底にも厚い水酸化鉄が沈殿している(Kiyokawa and Ueshiba, 2015).海岸線から湧出している熱水は高濃度の鉄(Fe2+:191ppm ; 四ヶ浦・田崎, 2001)を含有しており,外洋海水との混合によって酸化され,鉄水酸化物が生成される(Ninomiya and Kiyokawa, 2009).本研究では湾内の深度別海水の性質(温度,濁度,pH, ORP,電気伝導度)についてHoriba U-52を用いて測定を行った.そして,湾内の海水断面の状態や熱水の移動速度と水酸化鉄の挙動を調査した.
方法) 長浜湾の表層:長浜湾船付き場(E-site)にて温度センサー付きのドローンにより海表面の熱水の流動を観測し,熱水湧出部から南方向への熱水の海表面での流れを明らかにする.
海水断面:長浜湾船付き場(E-site)における南北40m,水深3-7mの海底断面について測定した.湧水源から湾内に南北にロープを張り,湧水源を基準点としてボート上から(0m, 1m, 3m, 9m, 16m, 23m, 30m)のポイントで深さ方向に20-50cm間隔で表層から海底までについて測定を行った.得られたデータはPython3を用いた解析を行い,連続変化が示される南北方向断面図を作成した.
水質測定日時:2020年11月9日-2020年11月11日の期間における上げ潮,上げ潮,干潮,上げ潮,干潮の5回について,1測線につき1時間程度かけて測定を行った.
結果)ドローンによる表面水温観察: 堤防直下や砂浜において熱水湧昇が確認されている.また,E-siteにおいて,防波堤ブロックの間からは大量の熱水湧昇が確認されており,プルーム状に熱水が表面まで上昇している.
 海水断面水質測定:pHは表層部(特に水深0-1m)では湧出源側から外洋側へかけて高くなり,海底部では全体的に高く約8.0で一定している.水温は湧出源側(25.6℃)から外洋側(25℃)にかけて低くなり,海底部ではほぼ(24.5℃)で一定している.濁度は,海底部にて低い値(20-30 NTUで一定)を示しており,表層部では,中間から外洋側にかけて高い値(70 NTU以上)を示し濁っていることがわかった.なお,湧出源側では濁度が低く(40-50 NTU),濁度が高くなる地点までの幅は,下げ潮時には5-10m,上げ潮時には0-5mであった.また,潮位による違いをみると, 満潮時は海底に静かに外洋水が流入しており,全ての項目でその影響が見られる.湧水源から5mほど透明な部分が見えるのは,満潮時であった.
考察)湧出部から外洋にかけての水質変化から,熱水は表層部へ湧昇して外洋に流出しており,表層部へ湧昇した熱水の影響の及ぶ水深は表層から0-1m部分であることが明らかになった.また,他の指標は連続変化を示すが,濁度のみ湧出部から側方に5mほど透明部分が存在している(満潮時).これは熱水中の2価の鉄イオンが湧出した後に酸化され,鉄水酸化物コロイドが析出するまでの時間を示している.ドローン映像より熱水の表層部を流れる速度は約10.7cm/s と見積もっており,熱水の湧出量・移動速度は一定であるとすると,水酸化鉄コロイドに変化するには約47 s の時間を要することがわかった.