日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG49] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2022年6月3日(金) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (24) (Ch.24)

コンビーナ:東 真太郎(東京工業大学 理学院 地球惑星科学系)、コンビーナ:田阪 美樹(静岡大学 )、清水 以知子(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、コンビーナ:桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、座長:東 真太郎(東京工業大学 理学院 地球惑星科学系)

11:00 〜 13:00

[SCG49-P01] リチウム添加オリビン多結晶体の高温変形実験ーオリビン水軟化メカニズム解明に向けてー

*夏井 文凜1、間山 憲仁2、中井 俊一1平賀 岳彦1 (1.東京大学地震研究所、2.東芝ナノアナリシス株式会社)


キーワード:マントルレオロジー、拡散クリープ、上部マントル、オリビン、水軟化、リチウム

オリビンは上部マントルの主要構成鉱物のひとつであり、上部マントルの流動を理解するために、オリビン多結晶体の高温変形特性を決定することは重要である。オリビンは上部マントルにおいて最大0.1 wt%程度含水していると考えられる。これまで含水オリビンの変形特性が実験的に調べられ、水を含むことで粘性率が大きく低下するとされてきた[Karato et al., 1986; Mei and Kohlstedt, 2000]。しかし、Siの自己拡散実験から水軟化の存在の否定、もしくは従来の予想よりその効果は著しく小さいという報告もある[Fei et al., 2013]。Yabe and Hiraga (2020)は、融点近くで粒界が無秩序化し拡散クリープが促進され、水軟化の実体は水によるソリダス低下を通して、粒界の無秩序化が大きくなることであると提案していた。
LiはHと同じく一価の陽イオンのため、Hのように振る舞うことが期待される。Dohmen et al. (2010)で、オリビンc軸方向において、Liが格子間サイトから金属サイトの空孔へと拡散し、Hにも見られる拡散経路であること、HとLiの拡散速度がオーダー範囲で近いことを報告している。
本研究では、大気圧下でもオリビンに導入可能なLiを水(H)のアナログ元素とし、Li添加オリビンとLiなしオリビンの高温変形特性を比較することで、水軟化のメカニズムを明らかにすることを目的とする。真空焼結法を用いて、Li2Oを添加したフォルステライト-ダイオプサイド多結晶体とフォルステライト-エンスタタイト多結晶体を合成した。Li2Oの濃度は秤量時500 wt ppmと5000 wt ppmの2種類作成した。合成した多結晶体の平均粒径は1 μm以下であった。大気圧高温一軸圧縮試験機を用いて、合成した多結晶体を843~1156℃、応力1~200 MPaで変形させた。Liなしオリビンより、100~200℃近く低い温度条件で変形し、2~4桁の粘性率の低下が見いだされた。実験前試料のLi含有量について3次元アトムプローブ分析を行ったところ、Liのオリビン粒内への含有と粒界濃集が認められた。また、実験後試料のLi含有量について四重極型ICP-MSで分析を行ったところ、出発物質秤量時の80%以上のLiが含まれており、試料合成および変形実験を経験しても試料内部にLiが残存していることが確認でき、Li添加オリビン多結晶体の高温変形実験に成功した。Liのオリビンレオロジーへの効果を通して、水軟化について議論する。