日本地球惑星科学連合2022年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG50] 島弧の構造・進化・変形とプレート沈み込み作用

2022年5月26日(木) 15:30 〜 17:00 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:石川 正弘(横浜国立大学大学院環境情報研究院)、コンビーナ:篠原 雅尚(東京大学地震研究所)、松原 誠(防災科学技術研究所)、コンビーナ:石山 達也(東京大学地震研究所)、座長:松原 誠(防災科学技術研究所)、篠原 雅尚(東京大学地震研究所)

15:30 〜 15:45

[SCG50-07] 東北地方陸域の震源断層モデル

*佐藤 比呂志1,2石山 達也1橋間 昭徳3加藤 直子4,1越谷 信5松原 誠6 (1.東京大学地震研究所地震予知研究センター、2.静岡大学防災総合センター、3.海洋研究開発機構、4.日本大学 文理学部、5.岩手大学 理工学部、6.防災科学技術研究所)

キーワード:震源断層、東北地方、上盤プレート

はじめに
 上盤プレート内の震源断層のモデル化は、強震動や津波予測の基本的なデータとして、また地震の長〜中期予測の上からも重要なものとなってきている。沈み込み帯において上盤プレート内の応力状態は、プレート境界での固着の状態に大きく支配される。したがって、上盤プレート内地震の予測には震源断層への応力蓄積を明らかにすることが重要な課題となる。このような定量的な解析を行うためには、プレート境界を含む広範囲での物理モデルでの計算と震源断層の形状モデルの構築が必要となる。我々の研究グループでは、活断層の深部形状の解明を目的として、東北日本において1996年から反射法地震探査をおこなってきた。ここでは、深部反射法地震探査結果をもとに、地学データを総合的に検討して構築した震源断層の矩形モデルを紹介し、それらの特徴について述べる。
震源断層モデルの構築
 震源断層モデルの構築には、活断層の分布(今泉ほか,2018; 産総研・活断層データベース)を参照した。反射法地震探査などの地下地質データ、重力、海成段丘面高度などの変動地形データ、地球物理学的観測データに基づいて推定された震源断層などを元に推定した。2008年の岩手宮城内陸地震など、活断層として認識されていないにもかかわらず震源断層が位置している場合も多く、地質構造などを考慮して推定した震源断層がある。また、海陸境界部については、地質構造と海成段丘の分布をもとに推定している。地下構造調査が少なく、確実性が下がる。地表の地震発生層の下限については、Hi-netの観測データから求められたD90の深度を参考にした。
震源断層の特徴
 東北地方は日本列島の中でも、新第三系が広く分布する地域である。この地域は、日本海拡大に伴って主として島弧と直交する方向の引張応力場に置かれ、その後島弧と直交する方向からの圧縮方向を受けた(Sato, 1994)。このため日本海形成時に正断層として形成された断層が、その後の短縮変形で逆断層として再活動している断層が多い。こうしたハーフグラーベンが反転した断層は、北上低地帯の断層群で明瞭である(Kato et al., 2006; Sato et al., 2004)。上盤側に相対的に若い地層が厚く堆積しており、地震探査では低速度層の増加や負の重力異常として現れる場合が多い。ハーフグラーベンの縁辺では、浅部で60度程度の傾斜を示すが、地震発生層全体ではリストリックな形状を示し角度が低下する。反転運動の際に断層上部にfootwall shortcut thrustが形成される場合も多い。また、複数のドミノブロックを形成する場合では、盆地中央部に近づくとより低角度となる。全体として40度から50度の傾斜を示すことが多いため、ハーフグラーベン起源の断層については45度の傾斜角を推定した。
 東北日本の日本海沿岸には、背弧中絶リフト帯が形成されている。新潟-北部フォッサマグナ、秋田-山形堆積盆地では、厚い新第三系堆積物、新第三系泥岩中のデタッチメントによる断層関連褶曲の形成が顕著である。こうした背弧リフトでは、苦鉄質岩の迸入に伴い下部地殻のP波速度が増大している。苦鉄質岩に富む領域は上に凸の形状を示し、花崗岩質の地殻上部との境界部はリフト外側に傾斜する物質境界をなしている。これが短縮変形により短縮し、大規模な楔型の逆断層を形成している。2007年中越沖地震の震源断層など、こうした背弧中絶リフト帯境界部の断層は30度程度の低角度の断層形状を示す。長野平野西縁断層帯は大規模な楔型逆断層の例で、浅部では北西傾斜の逆断層として現れるが、より深部の震源断層は南東傾斜の逆断層となっている。こうした断層システムでは下位の断層を、震源断層として評価した。
震源断層の評価に向けて
 上盤プレート内の応力状態は、プレート境界での固着状態に大きく支配されており、震源断層の周期的な挙動を期待することはできない。一方、地殻変動観測の向上と、それらを統合的に説明するための物理モデルの伸展により、震源断層にかかる応力蓄積レートは、数値的に推定することができる(橋間ほか,2022 JpGU)。断層の物理特性は、断層毎に異なるが、変動地形学的あるいは地質学的に推定可能な断層スリップレートは、基本的には断層の強度と見なすことができるなど、断層物質の研究も含め、統合モデルでの検討が可能な段階にはいりつつある。