日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG51] 機械学習による固体地球科学の牽引

2022年5月22日(日) 09:00 〜 10:30 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、コンビーナ:小寺 祐貴(気象庁気象研究所)、直井 誠(京都大学)、コンビーナ:矢野 恵佑(統計数理研究所)、座長:中野 優(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、加藤 慎也(京都大学防災研究所)、久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

09:00 〜 09:15

[SCG51-01] グラフ畳み込みを用いた点群超解像による海洋水深データのデータ拡張

*庄内 道博1、入澤 直矢1、フバチ ロベルト1、飯山 将晃2 (1.エコモット株式会社、2.滋賀大学)

キーワード:海洋地形図、深層学習、点群超解像

海洋の水深図は、航海のみならず、エネルギー、水産、環境、防災など様々な分野で重要な資料となっている。しかし、今日においても観測は海洋全体をカバーしている状況にはなく、日本財団-GEBCOによるSeabed2030プロジェクトにおけるGEBCO_2021グリッドでは、海洋底の約20.6%がマッピングされていると推定されている。この原因は、高精度の水深図を作成するには多くの地点で水深測定をする必要があり、費用と時間を要するためである。水深測定に用いるソナーには、それぞれ一長一短があり、シングルビームソナーはコストが安いが測定は一度に1点のみであり、マルチビームソナーはコストが高いが一度に広範囲を測定可能という特徴がある。
水深図作成プロセスは、主に1.GPS等による水平測位とソナーによる水中音速から水深を測定し、2.水温による音速校正や外れ値除去などを行うノイズ除去後、3.クリギングによるマップ化する。 これまでにプロセス3において,グリッド化された水深図データをデジタル画像として扱い、超解像と呼ばれる画像処理技術を利用して低解像度画像から高解像度画像を推定することにより、水深図の解像度を高める取り組みが進められている。水深図の詳細化には水深データが重要であるため、プロセス1におけるニューラルネットワークを用いた研究に取り組む意義は大きい。
近年、デバイスの進歩により、三次元点群データを扱う画像処理分野が進展し、点群超解像と呼ばれる点群の特徴を保持した点を増やすデータ処理技術が自動運転やモデリングなどをはじめとする様々な分野で成果を上げている。ソナーによる水深測定は三次元上の点を特定することに相当するため、水深データを点群として取り扱うことができる。本研究では、点群超解像の手法の中でも高い性能を示しているグラフ畳み込みによる学習型点群超解像技術を適用し観測データ自体を増やす可能性について検討した。
点群超解像には、グラフ畳み込みネットワークであるAR-GCN, PU-GCNを用いることとし、入力点数の2倍の個数の点数を出力するモデルを作成した。学習および評価で使用する三次元点群データは、JAMSTECの海底地形図データを用いた。この元データから航跡が平行なマルチビームソナーを模した高解像度点群を抽出し、そこから間引いたデータを低解像度点群とした。航跡間隔は、等間隔と非等間隔の2種類の間引き方を想定した。
その低解像度点群と高解像度点群のデータセットに加えて、航跡と航跡との間に計測点を挿入した新たなデータセットを作成した。これは、元のデータセットとして構築した点群は線状に点が分布しているのに対して、航跡間の水深の情報を従来手法であるクリギングで作成した水深の情報によって補完したものである。よって、大きく分けて2つのデータセットを作成した。各モデルにおいて、低解像度点群および超解像点群の水深図を高解像点群の水深図と比較することで、点群超解像の有効性を評価した。評価手法は、平均二乗誤差とSSIMによる定量評価と等深線による定性評価とした。
その結果、概ね低解像度点群をそのまま水深図にした方が定量評価の精度が高かったが、起伏のあるデータの場合は、点群超解像を用いた手法の方が精度が高い傾向が見られた。さらに等深線による定性評価では、点群超解像して画像化した水深図の方が局所的には海底地形の特徴を表現していることが確認された。
このことから観測データを増やすことで従来手法より、より詳細な地形を表現した水深図を得られる可能性が示唆された。今後はモデルの改善および検討を重ねていき、海洋水深データにおける点群超解像の有効性を示していきたい。