日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG52] 変動帯ダイナミクス

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (20) (Ch.20)

コンビーナ:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、コンビーナ:岩森 光(東京大学・地震研究所)、大橋 聖和(山口大学大学院創成科学研究科)、座長:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、岩森 光(東京大学・地震研究所)、大橋 聖和(山口大学大学院創成科学研究科)

11:00 〜 13:00

[SCG52-P08] 与那国島に分布する断層帯の発達過程およびテクトニクスの考察

*宮木 晴矢1大橋 聖和2 (1.九州電力(株)、2.山口大学大学院創成科学研究科)

キーワード:与那国島、活断層、テクトニクス、ビトリナイト反射率、RockJock、沖縄トラフ

【研究背景・目的】琉球弧はユーラシアプレートとフィリピン海プレートの境界付近に位置し,フィリピン海プレートは琉球海溝おいて沈み込む.また,琉球弧の背弧海盆で沖縄トラフが拡大をつづける.与那国島周辺には琉球海溝,沖縄トラフなどの大規模なテクトニクスが発達する.島内には複数の断層や節理などの地質構造が発達しており,これらは圧縮応力で形成された後に引張応力を受けていると報告された(坂井ほか,1978).しかし,圧縮場から引張場へ転換した明確な根拠は明らかにされていない.本研究の目的は,与那国島に発達する地質構造を再検討し,与那国島周辺のテクトニクスとの関係性について議論することである.そこで本研究では,与那国島を広域的(東部,南東部,西部)に調査し,断層帯構造やその近傍の古地温構造,鉱物組み合わせを明らかにすることで,与那国島の地質構造発達史を解明し,島周辺のテクトニクスとの関係性について議論する.
【研究手法】断層帯構造を調べるため,断層中軸部からクラック密度,断層岩分布,各面構造の走向傾斜を測定・記載した.また,周辺の被熱構造を調べるため,八重山層群からビトリナイトを含む岩石試料の採取とビトリナイト反射率(Ro%)の測定を行った.最高被熱温度の推定にはEASY%Ro (Sweeney & Burnham, 1990)を用いた.断層岩および母岩の鉱物組み合わせを調べるため,XRD測定およびRockJock (Eberl, 2003) を用いた鉱物定性・定量分析を行った.
【結果】東部と南東部の断層帯の記載から,断層岩の組み合わせ(断層ガウジ,断層角礫,カタクレーサイト)が一致し,未固結な断層岩(断層ガウジ,断層角礫)と固結性の高い断層岩(カタクレーサイト)で区分される断層コアとダメージゾーンの幅や規模も類似する.どちらの産状においてもクラック密度が高いダメージゾーンとカタクレーサイトの分布は重複するが,クラック密度の減少傾向は大きく異なる.東部ではカタクレーサイト分布域を境にクラック密度の急激な減少が認められる.それに対し,南東部のクラック密度はカタクレーサイトの分布域を超えても緩やかな減少傾向にある.以上のことから,東部の断層帯はmultiple fault coreとsingle fault core (Mitchell and Faulkner, 2009) の2つの構造を持ち,南東部の断層帯はsingle fault coreの構造を有することがわかった.XRD測定結果より,断層ガウジ,カタクレーサイトの断層岩と母岩の弱変形および非変形部に含まれる鉱物として,石英や非晶質物質(アモルファス・シリカ),イライト,緑泥石,スメクタイト,バーミキュライト,斜長石,そしてカリ長石が認められた.ビトリナイト反射率測定の結果,東部断層の上盤側のRo(%) は0.8,下盤側では0.97を示した.
【議論】緑泥石やイライトは200 ℃以上の熱水変質で生成することが知られており,高温の被熱イベントがあったと考えられる.また東部断層の上盤側Ro(%) は最高被熱温度に換算すると140 ℃,下盤側のRo(%) は163 ℃であり,この温度差(23℃)が断層の変位に起因すると仮定すると,断層帯を挟んだ八重山層群と琉球層群の鉛直変位量は後期更新世(琉球層群堆積)以降の変位だけでは説明できない.そのため琉球層群堆積以前から上盤の落ち込みがあった可能性が考えられる.東部と南東部の断層帯は同じリニアメントの北東端と南西端に位置するが,multiple fault coreとsingle fault coreの構造の違いから,東部で断層帯の初生構造が形成され複数回の変動の後に,南東部で断層帯の形成が開始したと考えられる.少なくとも複数回の変動による断層帯の成長に伴って東部と南東部の断層帯が接合し,現在の一連の断層帯に至ったと結論づけられる.加えて,島内の東部と南東部の断層露頭は同一の断層上にあるが,東部はNE-SW走向(N55°E, 57°N )であり,南東部の断層露頭はやや時計回りに回転したENE-WSW走向(N70°E, 80°N )を示す.そして,リニアメントはENE-WSEに近似する.これは島周囲のテクトニクスがNW-SE引張からN-S引張に応力が変化した履歴である可能性を示唆する.テクトニクスの議論より,島の南部,南東部,西部のすべての箇所において正断層が確認された.そのため,与那国島のテクトニクスは沖縄トラフ拡大による引張応力を受けたことが考えられる.また,島の西部,南東部,東部において逆断層は確認されず,坂井ほか(1978)で示された第三紀には南北圧縮,第四紀には南北引張で島のテクトニクスが形成されたとする解釈を支持する断層および地形的特徴は確認できなかった.したがって,与那国島には圧縮応力よりも引張応力の影響が強く作用していると考えられる.すなわち,フィリピン海プレート沈み込みによる圧縮よりも沖縄トラフの拡大が島の構造発達に強く影響している可能性が示唆される.
【引用文献】Eberl, D.D., (2003) U.S. Geological Survey Open -File Report 2003-78, 47 p. Mitchell and Faulkner (2009) Journal of Structural Geology, v. 31, no. 8, 802-816.坂井ほか (1978) 琉球列島の地質学研究,3,61-79.Sweeney and Burnham (1990) The American Association of Petroleum Geologists Bulletin,74,1559-1570.