日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG54] 火山深部のマグマ供給系

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (21) (Ch.21)

コンビーナ:麻生 尚文(東京工業大学)、コンビーナ:飯塚 毅(東京大学)、行竹 洋平(東京大学地震研究所)、座長:麻生 尚文(東京工業大学)、飯塚 毅(東京大学)、行竹 洋平(東京大学地震研究所)

11:00 〜 13:00

[SCG54-P01] 蔵王山における深部低周波地震の初動・後続相の発生プロセスと空間的特徴

★招待講演

*池谷 拓馬1山本 希1 (1.東北大学大学院理学研究科)


キーワード:蔵王山、深部低周波地震、震源プロセス

火山直下で発生する深部低周波地震 (Deep Low-Frequency earthquakes,以降DLFと記す) は最上部マントルから中部・下部地殻における火山性流体の挙動を示すと考えられている.蔵王山では,2011年東北地方太平洋沖地震以後,DLFの活発化が見られており,その震源は浅部クラスター(深さ20–28 km)と深部クラスター(深さ28–38 km)に分かれて分布する.浅部と深部のクラスターは,高Vp/Vs領域の側面付近と下部にそれぞれ位置する (Okada et al., 2015).Ikegaya and Yamamoto (2021) では,Matched Filter法を用いて検出したDLF 1178個を波形相関によって7グループ (A:深部クラスター,B–G:浅部クラスター) に分類し,各グループのS/Pスペクトル比を用いて,発震機構がdouble-couple (DC),CLVDを含み,等方成分に卓越することを明らかにした.本発表では,初動から後続相におけるS/P比の時間変化をもとにDLFの発生過程とその空間的特徴を議論する.
 解析には,蔵王山周辺に位置する防災科学技術研究所,東北大学の4観測点における1.5–3 Hz帯の波形を用いた.波形相関によって分類した7グループ(グループA–G)のDLFの内,複数観測点でSN比が2より大きいイベントに対して,P・S波初動の読み取りを行い,上下動のP波,水平動2成分のS波の初動読み取り値から3秒間の時間窓を使用した.P,S波それぞれの振幅二乗値について0.5秒時間窓で移動平均をとり,平滑化した振幅二乗値を時間積分することで,S/P積算エネルギー比の時間変化をDLF157個に対して推定した.また,比較のため,蔵王山から緯度・経度±1.5°以内,深さ10 km以浅のM3–4.5の通常の地殻内地震142個に対して,S/P積算エネルギー比を推定した.
 DLFのS/P比では,初動に最大値を示した後に低下し,再度上昇または一定となる傾向が明らかになった.一方で,通常の地震では,初動に最大値を示した後に地震波散乱により単調減少した. S/P積算エネルギー比の0–1秒における最大値と最終値(3秒における値)を比較した結果,DLF 86個 (54.8%) が複数観測点において初動付近により高いS/P比をとった.初動読み取り値の不確かさを考慮し,P・S波の読み取り値に標準偏差0.15秒の正規乱数を加え,100通りのS/P積算エネルギー比を各DLFに対して推定した結果,51個 (32.5%) は複数観測点で初動付近に最終値よりも有意に高いS/P比を示した.初動に高S/P比を示すDLF の2–3秒におけるS/P積算エネルギー比の増加率は,通常の地震と比較して少なくとも2観測点で有意に大きかった.
 DLFでみられたS/P比の時間変化はtensile-shear型の発生プロセスを示唆することから,波形全体に基づく発震機構解をDC,tensile crack成分に分解し,各成分の割合を変化させることで初動付近のS/P比の値を再現した.その結果,グループAでは20–50%,B–Gでは10–40%程度のDC成分を示し,波形全体に対する発震機構解に含まれるDC成分に比べ,より大きな割合となることが明らかになった.このことはDLFの発生プロセスは初動にDC,後続相でnon-DC成分の卓越するtensile-shear mechanismであることを示唆する.DLFのS/P比が後続相で再度上昇することは,non-DC成分によるP波が散乱によってS波に変換されたことに起因する可能性がある.初動に高S/P比を示すDLFの空間的特徴を明らかにするために,まずMatched Filter法で各テンプレートが検出した全DLFに対する初動に高S/P比を示すDLFの割合を計算した.その結果,テンプレートの階層クラスタリングに基づくサブグループの中に,初動に高S/P比を示すDLFの割合が56–72%と大きい群 (AH, SH),5–10%と小さい群 (AL, SL) が見られた.さらに,深部クラスターのAH・AL,浅部クラスターのSH・SLの震源は,誤差を考慮しても有意にすみ分けていることを明らかにした.このことは,<10 kmスケールの単一震源クラスター内において,DLFの発生・流体関与プロセスが空間的にすみ分けていることを示唆する.
今後,ダイクと断層の動的な相互作用に関する数値シミュレーションを行い,DLFの発震機構を検討することによって,その発生・流体関与プロセスの理解が深まると考えられる.