日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG55] 地震動・地殻変動・津波データの即時把握・即時解析・即時予測

2022年5月23日(月) 15:30 〜 17:00 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小木曽 仁(気象庁気象研究所)、コンビーナ:山田 真澄(京都大学防災研究所)、太田 雄策(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、コンビーナ:近貞 直孝(防災科学技術研究所)、座長:山田 真澄(京都大学防災研究所)、太田 雄策(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、小木曽 仁(気象庁気象研究所)

16:30 〜 16:45

[SCG55-05] ハミルトニアンモンテカルロ法による断層推定および不確実性評価手法の開発

*山田 太介1太田 雄策1大野 圭太郎2 (1.東北大学大学院理学研究科、2.国土交通省国土地理院)


キーワード:ハミルトニアンモンテカルロ法、全球測位衛星システム (GNSS)、Bayesian inversion、不確実性評価

地震発生直後に,リアルタイム観測データから震源断層および断層面上でのすべり不均質を推定し,その不確実性を定量把握することは,地震発生場の理解や災害時の被害最小化の観点から非常に重要である.不確実性の要因としては大別して観測誤差・モデル誤差が考えられるが,特に非プレート境界型地震では断層面の事前仮定が困難な場合があり,不適当な仮定によるモデル誤差は推定結果に大きく影響を与えうる.そのため,断層幾何の不確実性も含めた観測・モデル誤差の定量的な評価が重要である.
不確実性評価について,パラメータの事後分布推定を伴ったベイズ統計的断層推定手法が有用な手段の一つとしてよく利用される.ベイズ的手法ではサンプリングを行うためにマルコフ連鎖モンテカルロ法 (MCMC法) が一般に採用され,特にその一種であるメトロポリス・ヘイスティング法 (M-H法) は震源断層推定を始めとする多くの用途において利用されている.しかし同手法ではパラメータの遷移候補の採択率と遷移距離がトレードオフの関係にあり,とりわけ高次元の問題について長い混合時間が必要となる.同課題を克服するため,本研究では一般に他のMCMC法よりも高効率とされるハミルトニアンモンテカルロ法 (HMC法) に着目した.同手法は事後分布の勾配の情報を利用することで効率の良いサンプリングを実現する手法であるが,震源断層推定に対する適用例は存在しない.従って本研究では同手法を用いた単一矩形断層推定および断層すべり分布推定のアルゴリズムを新規に開発し,その適用可能性を評価した.
本研究では開発した手法を2016年熊本地震 (MJMA 7.3) に対して適用し,その精度評価を行った.その結果,まず単一矩形断層推定ではBurn-in 1×103 連鎖を含む2×104 連鎖以内での探索の収束が確認された.矩形断層の各断層パラメータの推定値は先行研究とよく一致し,データをよく説明するモデルの推定に成功した.さらにM-H法による推定結果との比較より,HMC法ではM-H法の2%程度の連鎖数で同等の矩形断層を推定できることを明らかにした.これは連鎖数の観点からのHMC法のM-H法に対する優位性を示している.またすべり分布推定においては,矩形断層推定によって獲得したサンプルから幾つかを選抜して断層幾何を仮定した.推定においてはすべりの空間分布に平滑化拘束を課し,その強度も同時に推定した.その結果,わずかな正断層成分を含む右横ずれ滑りが布田川断層に重なる浅部の領域を中心に推定され,先行研究と調和的な結果が得られた.さらに,事後分布の95%信用区間の長さを利用することで,各小断層の不確実性の評価を行った.また,獲得した多数サンプルのアンサンブル的活用として,断層面上での大滑り域の存在確率を評価した.本発表では開発した手法およびその適用結果について,より詳細な議論を行う.加えて,プレート境界型地震への適用に関しても議論を行う.