日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD01] 地殻変動

2022年5月26日(木) 10:45 〜 12:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、コンビーナ:加納 将行(東北大学理学研究科)、富田 史章(東北大学災害科学国際研究所)、コンビーナ:横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、座長:福島 洋(東北大学災害科学国際研究所)、山崎 雅(産業技術総合研究所)

11:45 〜 12:00

[SGD01-05] 地表変位と地下水位変化の相関性評価による大阪北部地震後の地殻物性変化の検討

*重光 勇太朗1石塚 師也1林 為人1 (1.京都大学大学院)


キーワード:2018年大阪北部地震、地下水位変化、PSInSAR解析

干渉合成開口レーダー(InSAR)解析は急速に進歩している測地観測技術であり,広域かつ時系列の地表変位データを取得することが出来る.近年,InSAR解析は地下水位モニタリングのアプリケーションとして用いられてきた.これまでの地表変位と地下水位変化に関する研究成果によって,地表変位と地下水位変化に相関性があることが分かっている.相関性のパターンとして季節性と線形性の2種類がある.線形相関の例として有名な例は地震後に急激に地下水位が上昇し,それに伴い地表面が隆起する現象がある.他方で,季節的な地下水位変化と地表変位の相関性についても多数研究が行われている.季節的な相関には正の相関と負の相関がある.先行研究により,その相関性は間隙水圧と水塊荷重に依存することが示唆された.間隙水圧が増加すると堆積層が膨張し,水塊荷重が増加すると堆積物層が圧縮されるという相反の現象が発生するとされている.Lu et al.,2020によると,間隙水圧の増加と水塊荷重の増加のどちらの影響が大きいかは,帯水層の貯留係数によって決まることが示唆された.しかしながら,このような季節性の正負の相関メカニズムの研究事例は少なく、相関性メカニズムの解明の余地が残されており、例えば、帯水層の特徴(被圧や負圧)や地下水の取水状況は考慮されていない.さらに,線形性の相関は地震前後でも現れることが知られている一方で,季節性の相関は地震によってどのように変化するか検討した研究事例は未だない.
 本研究では2018年6月18日に発生したMj6.3の大阪北部地震の被害範囲である京阪エリアを対象地域として,地表変位と地下水位変化の相関性の検討,及び地震前後における相関性変化を評価する.この地域では,Hashimoto et al. (2016)によって2007年から2010年の長期の地表変位が推定され,帯水層における地下水位の変化と地表変位の相関性が定性的に指摘されたため,高い相関性が期待された.地表変位データには,欧州宇宙機関の人工衛星であるSentinel-1データ(2016年12月24日~2019年12月27日)を用いたPSInSAR解析によって推定されたものを用いた.地下水位変化と比較するための地表変位は上下方向である必要があるため,南行軌道と北行軌道の2つの軌道のデータを用いて上下方向の地表変位を計算する2.5次元解析を行った.地下水位観測データには,国土交通省水文水質データベースが公開している合計21の地下水位観測点における2017年1月1日から2020年12月31日までの地下水位データを用いた.地表変位と地下水位変化の相関性を定量評価するために,相互相関係数を計算した.
 PSInSAR解析の結果,季節性の地表変位の変化が推定され,多くの地下水位観測点において地下水位変化と高い季節性の相関性があることが分かった.季節性の相関性パターンは(ⅰ)正の相関,(ⅱ)負の相関,(ⅲ)非相関の3つに分けられ,2つの地下水位観測点で正の,16の地下水位観測点で負の相関性がみられた.正及び負の相関の両方を含め,おおよそ相関性のピークが約1年毎に表れており,相関が季節性を持つことを評価することができた.地下水位観測点のうち,15点は不圧帯水層から取水する井戸,6点は被圧帯水層から取水する井戸であったが,帯水層の被圧の有無と季節性相関性の間には関係がみられなかった.正の相関性は地下水取水が行われている地域でみられたことから,地盤の各帯水層同士の連結性が相関性の正負に関わることが示唆された.
次に,大阪北部地震発生前後で期間を分けて各地下水位観測点の相関性を計算しなおすと,2018年大阪北部地震によって広範囲に負の相関性が増大したことが明らかとなった.これは,地震によって広範囲に地盤の浸透率,空隙率が増加し地下水量が増加したためと考えられる.大阪北部地震による地殻物性変化の仮説を検証するため,降水量の時系列変化に応じた地下水位モデルと実測値の比較検討,地表変位と地下水位変化データを用いた地震前後間の疑似弾性定数(地表変位と地下水位変化の比と定義)の比較検討を行った.1つ目の検討から,地震後の期間に地震前より地盤の空隙率と涵養量対降水量が増加し,地下水が増加したことが示唆された.2つ目の検討から,地震後に仮弾性定数の絶対値は小さくなり,地下水荷重が増加したことが明らかとなった.この検討結果は広域で負の相関性が大きくなったことと整合的である.以上の研究から,大阪北部地震によって広範囲に地盤の浸透率,空隙率が増加し地下水量が増加したことを示し,負の相関性の増大メカニズムを示唆した.Mw6.0クラスの地震は世界的に頻発するものであり,京阪エリアのような地下水資源を豊富に有するエリアにおいて同様の現象が起きている可能性がある.