日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL23] 地球年代学・同位体地球科学

2022年5月25日(水) 09:00 〜 10:30 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、コンビーナ:佐野 有司(高知大学海洋コア総合研究センター)、座長:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(高知大学海洋コア総合研究センター)

09:30 〜 09:45

[SGL23-02] 放射年代測定値と地学的イベント

*兼岡 一郎1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:放射年代測定値、地学的イベント、年代測定法、閉鎖温度

放射年代は、放射壊変が環境の物理・化学的条件に左右されず一定の割合で起こることを前提にして、放射性同位体や放射性起源同位体を含む同位体比の変化、放射壊変にともなう結晶への影響などが時間の関数であることを利用して年代を求める。そのようにして得られた年代数値が意味をもつためには、対象とする同位体に関して閉鎖系であることなど、いくつかの前提条件を満たす必要がある。それらの条件は年代測定法によって異なる点も少なくないので、得られた数値の試頼性を高めるために多くの努力がなされてきている。
一方、放射性年代測定によって得られた年代数値が、対象とする地学的なイベントのどのような時点の値を示しているかについては、必ずしも詳細な検討がなされないまま慣用的な取り扱いによってすまされていることが多い。しかし分析機器の分析精度の向上は目覚ましく、得られた年代数値に対して非常に小さい測定誤差が与えられるようになている現在、その年代数値がどのような地学的イベントに対応しているかについては慎重に考察する必要がある。
年代値を得たい地学的イベントに関して、そのイベントがその後の経過年代に較べて非常に短時間(年代測定誤差内)に生じているならば、得られた放射年代測定値がそのイベントが生じた年代にほぼ対応しているとみなしてもさしつかえない。火山噴火などは、その例である。一方堆積年代に関しては、放射年代測定値が海洋堆積物のように長期間をかけて徐々に固化していく過程のどの時点の年代をさすのかは明確でない。例えばillite,glauconiteなど堆積過程で生成される粘土鉱物などに対するK-Ar年代値などは、微化石などから推定される年代などよりもやや若い年代を示す傾向を示すことなどが報告されており、年代値の再現性に関しても火山岩などに対するよりも劣る。岩石の変成年代に関しては、長期間にわたる変成温度・圧力などによって鉱物組成の変化が生じ、年代測定試料としてどのような鉱物を対象とするかによって、その放射年代値が異なる。その際には鉱物と用いる放射年代法の種類によって与えられている”閉鎖温度”を利用して、対象岩体の熱史などを推定することが多く行われている。しかし”閉鎖温度”の値に関しては、冷却速度などにも関係し、放射性同位体を含む同位体比の変化ト、フィッション・トラック法などにおけるアニーリングなどは、異なった物理機構での変化なので、その閉鎖温度の意味は必ずしも同じではない。そのため、閉鎖温度の数値の不確定さを検討せずに、多くの有効数値を与えることは誤解を与える恐れがある。
放射年代測定によって得られた年代数値は、分析値を与えられた仮定と方式で年代数値に換算したものである。各年代測定法の前提条件を測定試料が満足していることや、得られた年代数値がどのような地学的イベントに対応しているかを慎重に検討していくことが、年代測定に携わる者にとって今後さらに強く要請されるべきことであろう。