日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL23] 地球年代学・同位体地球科学

2022年5月25日(水) 09:00 〜 10:30 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、コンビーナ:佐野 有司(高知大学海洋コア総合研究センター)、座長:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(高知大学海洋コア総合研究センター)

10:00 〜 10:30

[SGL23-04] 日本海溝海側斜面における間隙水中の3He/4He比と流体循環

★招待講演

*鹿児島 渉悟1朴 進午2山野 誠2佐野 有司3 (1.富山大学、2.東京大学、3.高知大学)

キーワード:流体循環、ヘリウム同位体、日本海溝、プレート沈み込み過程

海溝軸の海側では海洋プレートの屈曲に伴い地形的高まりが生じ、断層やプチスポット火山の形成など様々な現象が発生する。このような現象に伴う流体循環は、プレート沈み込みの過程を通じた地球深部と表層のリザーバの化学進化に影響すると考えられ、その規模や時間変動を解明することは地球史を紐解く上で重要である。流体の起源や循環を推定する上で、化学的に不活性でマントル起源物質の混入に敏感な3Heは有用なトレーサとなる。Park et al. (2021)は日本海溝海側斜面における間隙水中の3He/4He比を観測し、その空間分布などを基に、当該地域でモホ面を横切るような流体循環が存在する可能性を示した。しかしながら流体循環の空間的広がりや時間変動についてはデータが限られているため、ほとんど議論されていない。
本研究では、日本海溝海側斜面における流体の起源・循環およびその時間変動を調査するため、2020年8月の白鳳丸KH-20-8次航海を通じて三陸沖海域の断層近傍に位置する3点(MC1, MC2, MC3)で堆積物・海水試料を採取した。MC1, MC3はPark et al. (2021)のPC7, PC9と同じ地点である。各地点でマルチプルコアラーと採水器を用いて堆積物・底層水試料を採取した。揚収した試料は大気成分の混入を極力防ぐため速やかに銅管サンプラーに移し、両端を鋼鉄製クランプで封印した。その後の試料処理と測定は東京大学大気海洋研究所で実施した。遠心分離法により堆積物から間隙水を抽出し、間隙水・海水の溶存ガス成分を真空容器内の気相に抽出した。このようにして得られたガス試料を真空ラインに導入し、精製後にQMSで4He/20Ne比を、希ガス用質量分析計Helix SFTで3He/4He比を測定した。得られた試料のデータは、大気および大気と平衡した水(air-saturated water)の測定値に対して規格化を行った。三陸沖の3点で得られた3He/4He比の鉛直分布は、いずれも採取深度よりも深い層に大気より高い3He/4He比を持つリザーバが存在することを示唆した。さらに、MC1, MC3(Park et al. (2021)のPC7, PC9)のデータは、日本海溝海側斜面の断層における流体循環が、マントル起源物質を継続的に海洋へと供給している可能性を示した。当該地域における流体循環の空間パターンや時間スケールに関してさらなる情報を獲得することを目的として、今後も観測を実施する計画である。

(参考文献)
Park et al. (2021) Scientific Reports 11, 12026.