日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP26] 鉱物の物理化学

2022年5月26日(木) 09:00 〜 10:30 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:大平 格(学習院大学 理学部 化学科)、コンビーナ:柿澤 翔(広島大学大学院先進理工系科学研究科)、座長:大平 格(学習院大学 理学部 化学科)

10:15 〜 10:30

[SMP26-06] 湿潤大気条件での非晶質炭酸カルシウムの結晶化のその場観察

*鍵 裕之1、丸形 詩歩1、村岡 賢佑1、小林 大輝1 (1.東京大学大学院理学系研究科)

キーワード:非晶質炭酸カルシウム、結晶化、高湿度条件

非晶質炭酸カルシウム(ACC)は、化学式CaCO3 nH2Oで表される炭酸カルシウムの準安定形で、バイオミネラリゼーションや炭酸カルシウムの結晶化において重要な役割を担っている。ACCは高温でカルサイトに結晶化することが知られている(Koga et al., 1998)。また、ACCは1 GPa以下の高圧下でカルサイトとファーテライトの混合物に結晶化する。結晶化が起こる圧力はACCの含水量に依存し、カルサイトとファーテライトの比率は圧力に依存する(Yoshino et al., 2012)。また、ACCは湿潤空気中で炭酸カルシウムの結晶相に変化することも報告されている(Xu et al., 2006)。さらに、ACCはBa2+などのイオン半径が大きい不適合なイオンをカルサイトに導入するための中間体としても注目されている(Saito et al., 2020)。本研究では、高湿度条件下におけるACCの結晶化過程をX線回折によってその場観察した。

ACCは、氷冷したNa2CO3 (0.1 M) とCaCl2 (0.1 M) 水溶液それぞれ10 mLを混合することにより合成した。沈殿物をメンブレンフィルター(φ0.45μm)を用いて直ちにろ過し、氷冷したアセトン10 mLで2回洗浄した。得られた試料をダイアフラムポンプで真空引きしたデシケーターで1日乾燥させた。合成したACC試料の含水量は、TG-DTA測定から求めた。BaドープACC試料は、Ba/(Ba+Ca)比を変えたCaCl2とBaCl2の混合溶液を用いて同様に合成した(Saito et al., 2020)。XRD測定は、放射光X線源(BL-18C, Photon Factory, KEK)を用いて行った。ACC試料をカプトンテープに貼り付け、水蒸気で飽和した空気を試料室内に連続的に送り込んだ。波長0.619ÅのX線を直径100μmにコリメートし、フラットパネル検出器を用いて1分ごとにX線回折パターンを取得した。

純粋なACC試料はすべて2時間以内にカルサイトとファーテライトに結晶化することがわかった。時分割X線回折パターンから観察されたACCの結晶化挙動は、試料間で顕著な差異を示した。結晶化までの誘導時間は10分から1時間の範囲で変動し、カルサイトとファーテライトの比率も試料間で異なっていた。これの挙動を説明するメカニズムとして、ACCの含水量の違い、結晶化メカニズム(たとえば固相-固相、溶解-再析出)の違いが考えられる。
一方、25%および65%の濃度でBaを添加したACC試料は、実験時間内(2時間)では結晶化せず、非晶質の状態が保たれた。この挙動は、重いBaイオンを含むACCが結晶化するためには、純粋なACCよりもはるかに高い活性化エネルギーを必要とすることを示唆している。

湿潤条件下でのACCの結晶化挙動は、バイオミネラリゼーションの理解だけでなく、ACCの熱力学的な性質の理解にも寄与すると考えられる。