日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS06] 地震波伝播:理論と応用

2022年5月23日(月) 13:45 〜 15:15 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:澤崎 郁(防災科学技術研究所)、コンビーナ:西田 究(東京大学地震研究所)、新部 貴夫(石油資源開発株式会社)、コンビーナ:岡本 京祐(産業技術総合研究所)、座長:池田 達紀(九州大学)、新部 貴夫(石油資源開発株式会社)

14:15 〜 14:30

[SSS06-02] 分散型音響センシングで取得した高密度雑微動データに対する高解像度表面波トモグラフィに向けた表面波分散曲線の推定

*池田 達紀1辻 健1篠原 雅尚2 (1.九州大学、2.東京大学)

キーワード:表面波、DAS、地震波干渉法、トモグラフィ

近年、分散型音響センシング(distributed acoustic sensing、DAS)の開発により、地震データを高密度に観測することが可能になっている。特に海域では、既存の光ファイバーケーブルを利用した研究が進められており、取得した雑微動に表面波解析を適用することでScholte波を抽出し、海底下のS波速度構造を推定した例が報告されている (例えばSpica et al., 2020; Cheng et al., 2021)。

これまでのDASにより取得した微動データの表面波解析では、主に複数のチャンネルで取得したデータに対し、fk解析や表面波多チャンネル解析 (MASW; Park et al., 1999)などのアレイ解析を適用することで、表面波の分散曲線が推定されてきた。得られた分散曲線を逆解析することで、利用したチャンネル周辺の1次元S波速度構造を推定できる。さらに、異なるチャンネルで同様に推定された1次元S波速度構造を並べることで、測線に沿ったS波速度構造を2次元的に推定できる。このような多チャンネルベースのfk領域の位相速度推定では、モードの分離が可能であり、安定的に位相速度を推定できる。しかしながら、推定した1次元S波速度構造は、解析に利用したチャンネルの平均的な構造を反映するため、水平方向の解像度は低下してしまう。表面波からS波速度分布を推定する異なる方法として、観測点ペア間の位相速度を推定し、表面波トモグラフィを適用する方法がある。DASによる密なデータに観測点ペアベースの解析を適用し、多数のペアの位相速度を推定できれば、トモグラフィ解析により高解像度なS波速度構造の推定が可能になると考えられる。

そこで本研究では、DASの高密度なデータを活かし、観測点間の位相速度を安定的に推定する手法を提案する。提案手法は、地震計間の複素コヒーレンスの実部を計算し、その零点の情報から位相速度を推定するゼロクロス法(Ekström et al., 2009)を元にしている。周波数方向に零点を推定する従来の方法では、周波数方向の位相速度の連続性を考慮して分散曲線を推定するため、卓越するモードが変化する場合、分散曲線の推定が困難になる。一方、提案手法はDASの密なチャンネル間隔を活かし、周波数を固定し、空間(チャンネル間隔)方向に零点を推定する方法である。この方法では、空間方向の整合性から比較的簡単に位相速度を一意に推定できるため、卓越モードの変化にも対応可能である。また、一旦空間方向に零点を推定すれば、内挿補間により任意のチャンネル間隔の位相速度を推定することもできる。

三陸沖の海底に設置されている光ファイバーケーブルを用いたDAS計測によって取得された雑微動データに対し、提案手法によるチャンネル間の位相速度の推定を行なった。まず、各チャンネル間の複素コヒーレンスを計算し、中点が同じペアを集めたギャザー(CMPCCギャザー)を作成した。各CMPCCギャザーに対し、提案手法により周波数、チャンネル間距離ごとに分散曲線を推定した。さらに推定した各観測点ペアの基本、1次モードの分散曲線に表面波トモグラフィを適用することで、測線に沿ったS波速度分布を推定した。その結果、同じ地域のDAS計測による雑微動データに多チャンネルベース解析を適用して得られた、Spica et al. (2020)のS波速度構造に見られる低速度帯を検出することができた。

このように、提案手法によりDASで取得した高密度雑微動データから、卓越するモードが変化する場合であってもチャンネル間の位相速度を推定することができる。推定した多数のチャンネル間の位相速度に表面波トモグラフィを適用することで、より水平方向に解像度の高いS波速度構造の推定が可能になると考えられる。

本検討では、環境省「環境配慮型CCS実証事業」の一環で取得されたデータを利用した。