日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS06] 地震波伝播:理論と応用

2022年5月31日(火) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (18) (Ch.18)

コンビーナ:澤崎 郁(防災科学技術研究所)、コンビーナ:西田 究(東京大学地震研究所)、新部 貴夫(石油資源開発株式会社)、コンビーナ:岡本 京祐(産業技術総合研究所)、座長:白石 和也(海洋研究開発機構)

11:00 〜 13:00

[SSS06-P06] 地震波伝播シミュレーションに基づくスラブ内waveguide/anti-waveguide効果の周波数依存性の検討

*天坂 登宇伊1前田 拓人1高野 智也1 (1.弘前大学大学院理工学研究科)


キーワード:地震波伝播数値シミュレーション、導波・反導波

スラブ内に存在すると考えられている地震波速度の不均質構造は,スラブに沿った方向の多重散乱によってスラブ内に地震波をトラップする(Waveguide).その結果,低周波が高周波より先行する分散性および高周波(> 2 Hz)のコーダが波形に観測されることが知られている.一方で,スラブ内の長波長の地震波速度分布には地震波をスラブ外に追い出す効果(Anti-waveguide)もあることが知られている (e.g., Furumura and Kennett, 2005).例えば2020年12月のオホーツクの深発地震(M6.7, 619 km)では,スラブ内にトラップされた地震波による異常震域が太平洋側で観測されただけでなく,震央距離の近い稚内付近での振幅が異常に大きい特徴が見られた.その大振幅は主に低周波(< 1 Hz)が卓越し,高周波(> 2 Hz)成分が小さいことからWaveguide/Anti-waveguideの両方の効果が現れたことが示唆される.しかし,WaveguideとAnti-waveguideのどちらの寄与が大きいかはまだわかっていない.

そこで,本研究ではランダム不均質媒質を用いた2次元P-SV差分法地震波伝播数値シミュレーションにより,WaveguideとAnti-waveguideの周波数依存性を調査する.シミュレーションでの計算領域は水平方向に300 km,上下方向に400 kmである.用いる構造は浅い方からマントルウェッジ・スラブ・マントルで構成される水平成層構造である.この構造では,スラブに沿った方向が水平横向きになるように座標軸のひとつをとり,その軸と平行にマントルウェッジ層,マントル層を仮定した.震源はスラブ内に設置し,そのメカニズムは6成分のモーメントテンソルで与えた.モーメントテンソルの対角成分を同じ値にし,非対角成分をゼロとすることで,等方的に地震波が輻射される震源を利用した.スラブ内には速度ゆらぎRMSが10%で,特徴的な空間スケールがスラブに沿った方向に10 km,直交方向に0.5 kmの非等方性von Karman型の地震波速度ゆらぎを重畳した.また,仮想観測点を,2種類の異なる方向に設置した.1つは (1) スラブ層内で水平方向に30 km間隔で設置し,スラブ内におけるWaveguide効果の距離依存性を検討した.もう1つは (2) マントルウェッジ層内に,震源から等距離の位置に15度ずつ同心円状に設置し,スラブに対するAnti-waveguide効果の角度依存性を検討した.

各仮想観測点における波形およびスペクトログラムを調査した結果,距離依存性に関係する (1) と 角度依存性に関係する (2) で観測結果が大きく異なった.(1) では,低周波(< 1 Hz)が高周波(> 2 Hz)より早く観測される分散性が,東西水平成分および上下成分の両方でみられ,震源からの距離とともにその特徴が強くなっていくことが確認された.さらに2 Hz以上の高周波帯域においてコーダ波の振幅が特に大きかった.このように (1) でスラブ内におけるWaveguide効果の距離依存性を調査した結果,Waveguideによって観測される分散性の強さは震源からの距離に依存することがわかった.一方 (2) に関して,スラブと15度の角度をなす観測点では低周波(< 1 Hz)で構成されるヘッドウェーブが分散性のような効果をもたらしたが,他の観測点ではその特徴が見られなかった.また,スラブとなす角度が45度未満の観測点において高周波帯域のコーダ波の振幅が大きかった.しかし45度以上の観測点では低周波の振幅と高周波の振幅に大差はなかった.このように (2) でAnti-waveguide効果のスラブに対する角度依存性を調査した結果,スラブとなす角度が小さい(スラブに近い)観測点では低周波よりも高周波が大振幅に寄与するのに対し,角度の大きい(スラブから遠い)観測点では低周波と高周波の両方が大振幅をもたらすことがわかった.