日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 強震動・地震災害

2022年5月24日(火) 10:45 〜 12:15 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:松元 康広(株式会社構造計画研究所)、コンビーナ:鈴木 亘(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、座長:後藤 浩之(京都大学)、金子 善宏(Kyoto University)

11:45 〜 12:00

[SSS10-05] 2022年日向灘のスラブ内地震による強震動の特徴

*筧 楽麿1 (1.神戸大学大学院理学研究科)

キーワード:強震動、島弧、震源深さ、地震波の減衰

2022年1月22日に日向灘で発生したスラブ内地震(MW 6.4,深さ44.6 km)による強震動の特徴を,防災科学技術研究所の高密度強震観測網K-NET,KiK-netの強震動データを使って調べた。まず,比較のために2006年大分県西部のスラブ内地震(MW 6.4,深さ145.17 km)による加速度最大振幅(Peak Ground Acceleration,以下PGA)の空間分布(図の(A))について述べる。図から明らかなように,加速度振幅の空間分布が,極めて明瞭に東側に偏った,特異な分布を示すことがわかる。このような揺れの空間的な偏りは島弧の減衰構造を反映したものと考えられ,(a) 九州弧の低Q値の背弧側で高周波地震波が減衰する,(b) 大加速度域が九州弧の高Q値の前弧に沿って伸びる,(c) 大加速度域が高Q値のスラブの浅部延長側に伸びる,という3つの原因により,このような偏りが生まれると解釈される。更にこの地震の震源が145.17 kmと極めて深いために,低Q値または高Q値の媒質中を通過する波線の長さが長くなることから,減衰を受ける領域と受けない領域の揺れの振幅のコントラストが強調されたものになると考えられる。それに対し,図の(B)に示す2022年日向灘のスラブ内地震によるPGAの空間分布には,明瞭な空間的偏りは見られない。ただし,偏りは全くないわけではなく,図中の赤い太線で示した10 cm/s2のコンターを見ればわかるように,大加速度域の分布は同心円状というより,南西−北東に長軸を持つ楕円のような形状を示していることがわかる。この楕円状の形状は,詳しく述べると,(1) 北西側の九州の西部で振幅が小さい,(2) 大加速度域が南西側に少し伸びる,(3) 大加速度域が北東側に少し伸びる,という3つの要素から成り立っているが,そのそれぞれは,上記の(a),(b),(c)の3つの要因によるものと考えられる。このように2022年日向灘の地震の場合も,島弧の減衰構造を反映した揺れの偏りがある程度は見られるが,2006年の大分県西部の地震に比べてその明瞭さは歴然と劣る。この違いは震源深さの違いによってもたらされるもので,震源が44.6 kmと相対的に浅い2022年日向灘の地震の場合は,低Q値の媒質,高Q値の媒質を通る波線の長さが短いために,減衰構造の影響による振幅差が顕著には生じないと考えられる。更にもう一つ,震源が浅いために幾何減衰項の影響が強く,震源距離の小さい震央付近の領域の大加速度域が強調されることによって,減衰構造を反映した揺れの空間的な偏りがマスクされてしまうという効果が追加で加わるために,偏りが更に不明瞭になると考えられる。