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[SSS10-P20] 大庭正八による1944年東南海地震の遠江地方家屋被害情報のデジタルデータ化
キーワード:1944年東南海地震、遠江地域、家屋被害調査
はじめに 地震による被害の種類と程度からその場所における震度の推定が試みられてきている(例えば,宇佐美1995).しかし,被害状況を示した情報のうち,紙媒体でしか残されていない情報は多数ある.そのひとつが,1944年に発生した東南海地震の被害調査結果である(大庭1957;飯田1985など).大庭(1957)では,遠江地方における集落ごとの家屋被害が調査され,家屋被害率と地盤の関係について報告されている:例えば,家屋全壊率が100%に達する集落がある一方で,その近隣に家屋全壊率が0%という集落もみられ,この分布は地盤によるものとされている.このような,過去の地震による被害の地域性の把握と分析は,将来の地震防災を考えるのに非常に役立つことだといえる.そこで,本研究では,大庭(1957)による1944年東南海地震の際の遠江地方の家屋被害分布について各集落の経緯度を調査し,デジタルデータ化を行った.
2. 大庭(1957)について
著者の大庭正八氏は,六郷国民学校・現菊川市六郷小の教員である.戦時中という困難のなか,浜松~駿河湾西岸地域(東西約70km,南北約20kmの領域)における1944年東南海地震の被害について綿密な調査を実施した.そして,その結果が,河角広教授のもとまとめられ,東京大学地震研究所彙報に出版されたのが大庭(1958)である(中日新聞2021.12.8など).調査地域には 119の市町村,1160集落が存在しており,集落名とともに集落毎の家屋被害数と被害率が表としてまとめられている.加えて,当時の市町村や集落のおおよその場所が記された当時の国土地理院地図が付図として収録されている.論文出版後,市町村名や字名などの変更が多く行われているが,この付図が地点特定の助けとなる.
3.データ内容
入力データは,大庭正八(1957)論文の第Ⅲ表の家屋被害情報(地名,戸数,全壊数,半壊数など)と論文の付図を参考に調査した位置情報(経緯度)である.地名については,当時から現在にかけて大きく変わっていることが少なくないため,現在の地名についても併せて収録した.経緯度の値については,集落の代表値を与えた.
4. 結果
作成したデータベースによる住家全壊率から推定される震度分布図を図1に示す.この図では,全壊率と震度の関係については武村・虎谷(2015)を参考に,震度5以下,震度6-,震度6+及び震度7は,それぞれ全壊率が1%未満,1〜10%、10〜30%,及び30%以上としたものを示している.
図2には,武村・虎谷(2015)が同じ大庭データの市町村ごとに示した震度分布図を示す.(彼らは,この他に三重県から愛知県までの震度を調査しており,同図はその一部である.)今回作成したデータベースからは,より詳細な震度分布を示すことができる.
5. おわりに
作成したデジタルデータは,近日中に公開したいと考えている.現在,公開方法と公開場所について検討している.なお,本原稿では,全壊率のみによる震度分布を示したが,作成したデジタルデータには,全半壊率や備考欄も収録している.今後,本被害調査結果以外の情報や最新の様々な知見を踏まえ,本データを工学的・理学的に活用していきたいと考えている.
文献:
宇佐美龍夫(1995)安政江戸地震の精密震度分布図,https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/tosho/documents/3500000.pdf .
飯田汲事(1985)昭和19年12月7日東南海地震の被害と震度分布,飯田汲事教授論文選集東海地方地震・津波災害誌,p.449-570.
大庭正八(1957) 1944年12月7日東南海地震に見られた遠江地方の家屋被害分布と地盤との関係,東京大学地震研究所彙報,Vol.35,p.201-295. https://doi.org/10.15083/0000033968.
武村雅之・虎谷健司(2015)1944年東南海地震の広域震度分布の再評価と被害の特徴,地震工学会論文集、vol.15, p.7_2-7_21, https://doi.org/10.5610/jaee.15.7_2.
中日新聞2021.12.8: https://www.chunichi.co.jp/article/379599<最終閲覧:2022/02/11>
2. 大庭(1957)について
著者の大庭正八氏は,六郷国民学校・現菊川市六郷小の教員である.戦時中という困難のなか,浜松~駿河湾西岸地域(東西約70km,南北約20kmの領域)における1944年東南海地震の被害について綿密な調査を実施した.そして,その結果が,河角広教授のもとまとめられ,東京大学地震研究所彙報に出版されたのが大庭(1958)である(中日新聞2021.12.8など).調査地域には 119の市町村,1160集落が存在しており,集落名とともに集落毎の家屋被害数と被害率が表としてまとめられている.加えて,当時の市町村や集落のおおよその場所が記された当時の国土地理院地図が付図として収録されている.論文出版後,市町村名や字名などの変更が多く行われているが,この付図が地点特定の助けとなる.
3.データ内容
入力データは,大庭正八(1957)論文の第Ⅲ表の家屋被害情報(地名,戸数,全壊数,半壊数など)と論文の付図を参考に調査した位置情報(経緯度)である.地名については,当時から現在にかけて大きく変わっていることが少なくないため,現在の地名についても併せて収録した.経緯度の値については,集落の代表値を与えた.
4. 結果
作成したデータベースによる住家全壊率から推定される震度分布図を図1に示す.この図では,全壊率と震度の関係については武村・虎谷(2015)を参考に,震度5以下,震度6-,震度6+及び震度7は,それぞれ全壊率が1%未満,1〜10%、10〜30%,及び30%以上としたものを示している.
図2には,武村・虎谷(2015)が同じ大庭データの市町村ごとに示した震度分布図を示す.(彼らは,この他に三重県から愛知県までの震度を調査しており,同図はその一部である.)今回作成したデータベースからは,より詳細な震度分布を示すことができる.
5. おわりに
作成したデジタルデータは,近日中に公開したいと考えている.現在,公開方法と公開場所について検討している.なお,本原稿では,全壊率のみによる震度分布を示したが,作成したデジタルデータには,全半壊率や備考欄も収録している.今後,本被害調査結果以外の情報や最新の様々な知見を踏まえ,本データを工学的・理学的に活用していきたいと考えている.
文献:
宇佐美龍夫(1995)安政江戸地震の精密震度分布図,https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/tosho/documents/3500000.pdf .
飯田汲事(1985)昭和19年12月7日東南海地震の被害と震度分布,飯田汲事教授論文選集東海地方地震・津波災害誌,p.449-570.
大庭正八(1957) 1944年12月7日東南海地震に見られた遠江地方の家屋被害分布と地盤との関係,東京大学地震研究所彙報,Vol.35,p.201-295. https://doi.org/10.15083/0000033968.
武村雅之・虎谷健司(2015)1944年東南海地震の広域震度分布の再評価と被害の特徴,地震工学会論文集、vol.15, p.7_2-7_21, https://doi.org/10.5610/jaee.15.7_2.
中日新聞2021.12.8: https://www.chunichi.co.jp/article/379599<最終閲覧:2022/02/11>