日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS12] 活断層と古地震

2022年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、コンビーナ:白濱 吉起(国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層火山研究部門活断層評価研究グループ)、佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)、コンビーナ:吉見 雅行(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、座長:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、大上 隆史(産業技術総合研究所 地質調査総合センター)

16:25 〜 16:40

[SSS12-08] 津波波形と地殻上下変動のジョイントインバージョンから推定した1923年大正関東地震の震源過程

*中䑓 裕美1谷岡 勇市郎1中垣 達也1山中 悠資1 (1.北海道大学)

キーワード:津波、1923年大正関東地震

1923年9月1日に発生した大正関東地震は,10万人以上の死者・行方不明者を生じ,日本における最大規模の災害であった.また,首都圏はこの地震によって壊滅的な被害に見舞われた.地震直後に,震災予防調査会により様々な調査が実施され,1926年に報告書として公表された.報告書には,地殻変動の観測データと験潮所で観測された津波波形が含まれている.
近年の研究では,主に地殻変位量に基づくインバージョン解析から詳細な断層モデルが推定されている.しかしながら,陸上の地殻変動データは沖合や海溝付近の断層でのすべりの分解能が低いということがわかっている.したがって,これらの断層のすべりは他のデータによって制約される必要があるが,幸いにも1923年の大正関東地震関に関する震災予防調査会の報告では,東京湾と日本の太平洋岸の験潮所で津波が観測されていた.

そこで本研究では,沖合などの海域のすべり量を拘束できる津波波形データを取り入れた震源モデルの推定をした.まず,すべり分布の推定に使用される小断層は,プレート境界面に位置していた.日本の中心部では3つのプレートが重なり合い,世界的にも珍しい三重会合点を形成しているが,その沈み込み帯の一つが相模トラフである.このような3次元的複雑性をもったプレート境界面は,従来の津波波源モデルで使用されてきた四角形の断層モデルで再現することは困難である.そこで,三角メッシュ化された小断層を隙間なく配置することで,プレート形状を反映した断層モデルを構築した.
次に小断層の各すべり量を推定するために,津波波形と地殻上下変動のジョイントインバージョンを実行した.津波の数値計算については,東京湾内及び茨城県の計4地点の観測波形を使用し,さらに東京湾においては地震発生当時の地形に近づけるため埋立地などを取り除いた海底地形データを使用した.
ジョイントインバージョンの結果,神奈川県相模湾の内陸で最大11mのすべりが推定された. 房総半島の北部ではほとんどすべりは推定されなかったが,南部では4~6mのすべりが推定された.左右に分かれたすべり分布の傾向は先行研究と調和的であった.また,このモデルから計算した津波と地殻変動のvariance reductionはいずれも80%以上となり,観測値をよく説明した.

本研究では, 震源過程の推定に津波波形データを加えたことで,地殻上下変動のデータのみでは拘束できなかった沖合や海溝付近の断層のすべり量を十分な分解能をもって推定できた. 海溝沿いのすべり量は陸寄りのすべり量よりも相対的に低く,1923年大正関東地震が津波地震ではなかったことが示された.