日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS13] 環境地震学の進展

2022年5月31日(火) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (20) (Ch.20)

コンビーナ:前田 拓人(弘前大学大学院理工学研究科)、コンビーナ:西田 究(東京大学地震研究所)、小原 一成(東京大学地震研究所)、コンビーナ:酒井 慎一(東京大学地震研究所)、座長:前田 拓人(弘前大学大学院理工学研究科)、西田 究(東京大学地震研究所)、小原 一成(東京大学地震研究所)、酒井 慎一(東京大学地震研究所)

11:00 〜 13:00

[SSS13-P06] 高密度・広帯域・長期間の地震動振幅モニタリングに向けて

*前田 拓人1 (1.弘前大学大学院理工学研究科)

キーワード:地震動、連続記録、データセット

高密度・高感度な基盤的観測網による連続観測記録の充実により,通常の地震以外の記録に注目が集まっている.地震波の連続記録の中には,脈動を代表とする大気水圏と固体地球との結合による振動や人間活動に伴う振幅の増減など,多種多様な振動が情報として含まれている.しかし,これらの記録は実に多様であり,さらなる現象の発見とそのより深い理解のためには,これまで蓄積された連続記録の定常状態の特徴を正確に把握することがなにより肝要であろう.そこで本研究では,あえて特定の時期や現象にターゲットを絞ることなく,これまでに蓄積・公開されている高感度地震観測網Hi-netの記録のすべてを正面から扱い,そこからの特徴抽出を行うための基礎的なデータセットの作成を試みた.

本研究では防災科学技術研究所による高感度地震観測網Hi-netの2021年末時点で観測点一覧にあるすべて観測点を対象とし,連続波形記録が公開されている2004年4月1日以降の記録に対して以下のような処理を行い,振幅値データセットを作成した.まず,各観測点3成分の地震波形それぞれに対し,日本標準時の9:00〜翌日の8:59を一日の単位とし,前後それぞれに5分のマージンを付して連続記録を切り出した.平均値の除去後データ始終端のコサインテーパを掛け,さらに観測点正常性確認シグナルが入る区間の前後1分間も同様のテーパによって振幅をミュートした.この記録に対して,時間領域畳み込み・逆畳込みフィルタにより,自然周波数0.025 Hzの地震計相当の記録に変換した.さらに0.1-0.25 Hz, 0.25-0.5 Hz, 0.5-1.0 Hz, 1.0-2.0 Hz, 2.0-4.0 Hz, 4.0-8.0 Hz, 8.0-16.0 Hzの7つの帯域のゼロ位相バタワース型バンドパスフィルタを適用し,3成分の振幅を1分の時間窓でRMS平均することにより,各周波数帯における1分値を得た.

Hi-netの連続波形記録は1ヶ月あたり約600−800 GBほどであるが,この処理によって出力される記録はHDF5のバイナリ形式で1ヶ月あたり1.6 GBほどであり,約350倍にデータ量を圧縮したことになる.解析は順次実行しているが,解析対象の連続記録の量は約130 TBと莫大であるため,本予稿執筆時点では2004年4月から2012年末までの記録の処理が終わった段階である.順調に進めば講演時点までには2021年末までの処理が終わる見込みであり,講演では最新のデータを加味した結果を紹介する.

この記録に基づく予備的な解析として,上記のデータよりそれぞれ昼と夜の時間帯を日本時間 10:00〜16:00,22:00〜翌04:00と定義し,それぞれの区間における中央値を日中値・夜間値として抽出し,その8年8ヶ月にわたる時空間分布を調べた.その振る舞いは周波数によって大きく異なり,おおむね1 Hzを境にして低周波側では気象・波浪起因とみられる空間的に連続性のある振幅パターンとその日変化・年周変化が,高周波側では日夜や平日・休日の顕著な違い,さらにその振れ幅が場所によって大きく異なる様子が確認できた.一例として,図に東北地方太平洋沖地震直後の2011/3/17の夜間振幅を示す.余震が継続して発生するため,中央値をとっても高周波の地震動振幅が明瞭に確認できるが,その影響範囲は関東南部から北海道中部までであること,より低周波では地震とは無相関に日本海沿岸に広く大振幅領域が広がっていることが見てとれる.今後はこのデータセットを基盤とし,さらなる特徴量の抽出を試みていく予定である.