日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC29] 火山・火成活動および長期予測

2022年5月31日(火) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (25) (Ch.25)

コンビーナ:長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、コンビーナ:上澤 真平(電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)、及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、コンビーナ:清杉 孝司(神戸大学自然科学系先端融合研究環)、座長:上澤 真平(電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)

11:00 〜 13:00

[SVC29-P06] 富士山・青木ヶ原溶岩流の西湖風穴群の位置・形状とその内部構造

*本多 力1 (1.火山洞窟学会)

キーワード:溶岩洞窟、青木ヶ原溶岩流、西湖風穴、富士山

[はじめに]
青木ヶ原溶岩流は長尾山火口―下り山火口―石塚火口の割れ目火口列から流出し,末端部はせの海に流入してこれを分断して現在の精進湖と西湖を形成した[1].噴火口近くの標高が高く高低差の大きい地域にできるほぼ直線的な溶岩チューブ洞窟(神座風穴第1など)と溶岩流末端部で溶岩が滞留した地域で形成された溶岩洞窟は異なる様相を呈している[2,3].溶岩が末端部で流入したせの海地域に形成された西湖風穴群の様相・特徴について調査検討した結果の紹介をする.
[西湖風穴群の位置と構造]
西湖風穴群の位置を図1に示す.点線で囲んだ範囲は青木ヶ原溶岩がせの湖に流れ込むまえの推定範囲を示している.現在の西湖と精進湖の湖水面の標高は902mで同じ標高で水深はそれぞれ76m,16mであり,湖底に堆積した溶岩の亀裂や空洞により互いに連通していることは明らかである.西湖風穴群の洞窟は溶岩流がせの湖を埋めた末端部近くの場所にあるため,大量の溶岩が湖に流れ込んだ際,沸騰してガス化した湖水の圧力により滞留した溶岩流の内部が抜け出したり空洞が膨張したりして,立体的かつ迷路状の複雑な空洞構造を成したと考えられている[2].西湖風穴群に特徴的な例として迷路(Labyrinth)状の西湖コウモリ穴(図2),環(Ring)状の西湖風穴第13(図3)があり,高低差のない洞窟の内部は低天井であるが,直線的溶岩チューブ洞窟で見られると同様な,縄状溶岩,溶岩棚,溶岩球,溶岩橋,溶岩鍾乳,溶岩ドームなどが小規模ながら見られる[2].
[西湖風穴群の生成機構]
西湖風穴群は青木が原溶岩流末端部近くの場所にあり,溶岩が滞留したほぼ平坦部で空洞が形成されているため,膨張した溶岩の抜け殻形成に対して傾斜角度による高低差による重力の効果がいくらかあるにしても,湖水のガス化による圧力により溶岩流内部が排出され内部空間が拡大した効果によって形成されたと考えるのが自然と思われる.溶岩流の末端部はほぼ平坦部で溶岩が滞留し溶岩池のような溜りを形成し表面が固化し,溶岩池中央部はへこみ溶岩柱を形成しドーナツ状の柔らかい溶岩形状となり,ガス圧や溶岩静圧により内部の柔らかい溶岩が押し出されると考えられる.蒸気圧ピストンにより溶岩を押し出すイメージを考えればよいと思われる.西湖風穴群の空洞がどのくらいの水蒸気圧力で形成されたか概略見積もってみた.青木ヶ原の溶岩の降伏値fBを5000Pa程度[3]として,空洞直径Hは約4m,空洞長さℓは20m~100mとして溶岩を抜け出させる圧力[4]:ΔP=4fBℓ/Hを求めると,1.0x105Pa~5.0x105Paとなりおおよそ1~5気圧の圧力が必要となる.この圧力は溶岩流(~1000℃)による湖水の閉じ込めと加熱により可能と考えられる。
[おわりに]
青木ヶ原末端部に位置(標高915m~965m)する西湖風穴群は旧せの湖の中に溶岩が流入して形成されており,噴火口近くの高い位置(標高~1200m)にある等高線に垂直な方向にほぼ直線的に形成される単純な溶岩チューブ洞窟(神座風穴第1など)とは異なった形状を示す.溶岩の加熱による湖水のガス化による水蒸気が空洞のあらゆる方向への膨張や平坦部における滞留した溶岩からの抜け出しに貢献していると考えられる.西湖と精進湖が連通している事実から旧せの海の湖底にもこのような溶岩洞窟が存在している可能性がある.
参考文献:
[1]千葉達朗ほか(2007):航空レーザ計測にもとづく青木ヶ原溶岩の微地形解析,富士火山(2007)荒牧重雄,藤井敏嗣,中田節也,宮地直道 編集,山梨県環境科学研究所p349-363
[2]小川孝徳(1996):山梨県天然記念物緊急調査報告書,地質・鉱物,山梨県教育委員会
[3]本多力,勝間田隆吉,鈴木一年,宮下弘文,宮崎哲,川村一之(2019):P-118青木ヶ原・石塚溶岩流の溶岩チューブ洞窟と樹型から得られる知見,日本火山学会2019年度秋季大会,講演予稿集
[4]岡小天(1976):レオロジー,物理科学選書7(昭和51年版),裳華房,p53-56