日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC30] 火山防災の基礎と応用

2022年5月27日(金) 13:45 〜 15:15 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、コンビーナ:石峯 康浩(山梨県富士山科学研究所)、千葉 達朗(アジア航測株式会社)、コンビーナ:宮城 洋介(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、座長:石峯 康浩(山梨県富士山科学研究所)、千葉 達朗(アジア航測株式会社)

14:30 〜 14:45

[SVC30-04] 噴火規模の頻度分布を反映する火砕流の確率論的ハザードマッピング手法の提案

*志水 宏行1田邊 章洋1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:火砕流、到達範囲、確率論的ハザードマップ、数値シミュレーション、噴火規模、頻度分布

火山噴火では,火砕物粒子とガスの混合物が火口から噴出し,それが火砕流として地表面を流れ下ることがある.火砕流は高温高速で流動する危険な現象であり,その到達範囲を予測することは火山防災上重要な課題である.火砕流の到達範囲は噴火条件(特に噴火規模)や地形に強く依存し,それらの影響を評価する数値シミュレーションモデルがこれまでいくつか提案されている.火山防災の現場においては,そのような到達範囲予測モデルの結果を地図上に可視化したハザードマップが,意思決定,リスク評価,防災学習などに広く利用されている.ハザードマップの作成方法は平成25年に内閣府などがまとめた「火山防災マップ作成指針」に記述されているが,その作成指針には統一基準が十分に定められていないという問題がある.特に,火砕流到達範囲を強く支配する噴火規模M (=log10(噴出マグマ質量[kg])-7; 早川, 1993, 火山; Pyle, 1995, Geophys. Res. Lett.)はイベントによって0から8程度まで大きく異なるが,このような噴火条件に対する取り扱いがハザードマップ作成者によって異なる.本発表では,噴火規模Mの取り扱いに対する恣意性を排除するために,噴火規模Mに対する任意の頻度分布N(M)を火砕流数値シミュレーション結果と組み合わせる確率論的ハザードマッピング手法を提案する.

提案する確率論的ハザードマッピング手法は,以下の4つの手続きから成る.

[手続き1] 考察の対象とする噴火規模Mの下限と上限を設定し,その範囲内においてMの値をMiとして任意の間隔dMi±1/2(=|Mi-Mi±1|)でサンプリングする.

[手続き2] サンプリングしたMiに対する火砕流の数値シミュレーションを行い,各Miに対する火砕流到達範囲の予測結果を得る(到達範囲内の地点を1,それ以外を0とスコア付けする).

[手続き3] 各Miに対する到達範囲結果の各地点のスコアにMの確率分布Nii(Ni)を掛ける(またはMの頻度分布Niそのものを掛ける)ことにより,到達範囲結果のスコアに重みを付ける.ここではNi=0.25{N(Mi)+N(Mi-0.5dMi-1/2)}dMi-1/2+0.25{N(Mi)+N(Mi+0.5dMi+1/2)}dMi+1/2とする.

[手続き4] 各Miに対して得られた重み付けられたスコアを全てのMiに対して足し合わせ,その結果を地図上で可視化する.

これらの手続きにより,噴火規模Mの頻度分布N(M)と火砕流到達範囲の数値計算結果を組み合わせた確率論的ハザードマップが作成される.既存手法(Monte Carlo型サンプリングに基づく手法など)と比べた本手法の特色としては,頻度分布N(M)を変えたハザードマッピングを行う際に[手続き3]から再実施すれば良いという利点が挙げられる.これにより,頻度分布N(M)を変えたハザードマッピングの度に[手続き2]の数値シミュレーションをやり直す必要がないため時間を大幅に節約できる.

一例として桜島昭和火口からの噴火を想定した火砕流到達範囲の確率論的ハザードマップを作成した.ここでは,噴火規模M の下限を1,上限を3.5に設定し,0.5の等間隔でMの値をサンプリングした.数値シミュレーションでは,火砕流下部の高粒子濃度領域の振る舞いを記述する高濃度粒子流モデル(志水, 2021, 火山学会)を使用し,メッシュ作成にはNHKから提供された高精細地形データを使用した.噴火規模M の頻度分布N(M)については2通り想定し,1つは一様分布(N=const),もう1つは各火山において地質学的時間スケールで成り立つ経験的べき乗則(N∝-0.75M; 中田, 2015, 火山)を与えた.一様分布を与えた場合と比べ,経験的べき乗則を与えたハザードマップでは,到達範囲が狭い小規模な火砕流は高頻度で,到達範囲が広い大規模な火砕流は低頻度で発生するという一般的性質が強く反映される結果が得られる.今後は,噴火規模M の下限・上限の設定基準を導入し,噴火規模だけでなくそれ以外の噴火条件(噴火口位置など)に対する頻度も評価することにより,本手法の高度化を目指す.