11:00 〜 13:00
[SVC31-P06] 吾妻山大穴火口底における陥没現象
キーワード:吾妻山、大穴火口、陥没孔、地熱域、噴気
1.はじめに
山形・福島県境に位置する吾妻山は,1331年のマグマ噴火以降,大穴火口や燕沢火口列,硫黄平周辺において水蒸気噴火を繰り返している.最新の1977年噴火のほか,現在の地震活動や地殻変動,噴気活動も主に大穴火口を中心として発生している.
大穴火口では,2021年8月から9月の間に陥没孔が形成された.
このような局所的な陥没孔の形成は,火口直下での熱水や高温の火山ガスの流路の変化を示唆している可能性があり,形成前後の状況を整理してその成因を検討することは,火山活動を監視・評価する上で重要である.
そこで本発表では,陥没孔の現地調査の結果のほか,陥没孔形成前後の大穴火口周辺の噴気・地熱域の状況について整理し報告する.
2.形成時期
2021年9月20日に実施された気象研究所の現地調査により,大穴火口底に陥没孔が形成されているのが確認された.同年8月19日には,発表者らが現地を調査し陥没孔が存在していないことを確認している.一方,東北大学らによって9月7日に現地で撮影されたドローン映像によると,すでに陥没孔が形成されていることが確認できる.このことから,陥没が発生したのは2021年8月19日から9月7日の間に絞られる.
3.現地調査結果
気象研究所からの連絡を受けて,仙台管区気象台では2021年9月22日に陥没孔の現地調査を実施した.陥没孔は大穴火口内の北側に位置し,孔の形状はほぼ正円で,その直径は約10 m(実測値)である.深さは5 m程度と推定される.陥没孔壁は,ほぼ垂直に落ちており,孔の形状をほぼ円柱と仮定した場合の体積欠損はおよそ400m3程度である.
陥没孔底には崩落による崖錐が堆積しているが,西側には白濁した湯だまりが形成されている.赤外熱映像装置による計測では,湯だまり水面の温度はおおよそ50℃前後である.湯だまりの一部には,底から気泡が湧昇しているのが確認できる.南東側の陥没孔壁には,約40℃と湯だまり水面よりも若干低温の流水が流れ出ており,その流路は赤色に変色している.また,陥没孔底部の地表からわずかに噴気または湯気が上がっており,壁面には高温を示す部分が認められる.
4.形成原因の推定
陥没孔の周辺には,新しい堆積物や噴石によるクレーターが認められないことから,陥没孔形成前後に噴出現象は発生していないとみられる.
一方,陥没孔が形成された箇所は,2020年8月頃よりスポット的に高温の地熱異常がみられていた領域に一致するため,局所的な熱作用が今回の陥没を引き起こした主原因と推察される.陥没前の地表は周囲に比べやや白色を帯びており,硫黄が析出している小さな孔が点在していた.また携帯型のガス検知器で17ppm前後のH2Sが検知された.深さ約15cmの地温は全体的に90℃程度あり,最高は94.3℃であった.
今回の陥没孔が形成された大穴火口北部では,1966年に土砂噴出と陥没孔の形成が発生している.当時の噴出孔は既に移動土砂により埋積されているが,再堆積部は周囲に比べて空隙が多いことから,地下からの熱水や高温の火山ガスの対流等により地質が脆弱化し,陥没に至ったと推定される.なお,陥没に関連するとみられる地震波形や明瞭な傾斜変動は認められない.
大穴火口では,2020年7月22日から24日にかけてW-6b噴気孔で溶融硫黄の燃焼が発生している.監視カメラによる観測では,概ねこの時以降,W-6bの噴気の高さが大幅に低下するとともに,火口内の他の噴気孔の噴気の高さが上昇し,W-5噴気孔では定常的に50 mを超えるようになった.このことは,2020年7~8月頃を境に大穴火口の地下浅部で熱の流路に何らかの変化があったことを示唆しており,大穴火口北部の地熱スポットの出現および陥没孔の再形成に少なからず影響を及ぼしたものと考えられる.
山形・福島県境に位置する吾妻山は,1331年のマグマ噴火以降,大穴火口や燕沢火口列,硫黄平周辺において水蒸気噴火を繰り返している.最新の1977年噴火のほか,現在の地震活動や地殻変動,噴気活動も主に大穴火口を中心として発生している.
大穴火口では,2021年8月から9月の間に陥没孔が形成された.
このような局所的な陥没孔の形成は,火口直下での熱水や高温の火山ガスの流路の変化を示唆している可能性があり,形成前後の状況を整理してその成因を検討することは,火山活動を監視・評価する上で重要である.
そこで本発表では,陥没孔の現地調査の結果のほか,陥没孔形成前後の大穴火口周辺の噴気・地熱域の状況について整理し報告する.
2.形成時期
2021年9月20日に実施された気象研究所の現地調査により,大穴火口底に陥没孔が形成されているのが確認された.同年8月19日には,発表者らが現地を調査し陥没孔が存在していないことを確認している.一方,東北大学らによって9月7日に現地で撮影されたドローン映像によると,すでに陥没孔が形成されていることが確認できる.このことから,陥没が発生したのは2021年8月19日から9月7日の間に絞られる.
3.現地調査結果
気象研究所からの連絡を受けて,仙台管区気象台では2021年9月22日に陥没孔の現地調査を実施した.陥没孔は大穴火口内の北側に位置し,孔の形状はほぼ正円で,その直径は約10 m(実測値)である.深さは5 m程度と推定される.陥没孔壁は,ほぼ垂直に落ちており,孔の形状をほぼ円柱と仮定した場合の体積欠損はおよそ400m3程度である.
陥没孔底には崩落による崖錐が堆積しているが,西側には白濁した湯だまりが形成されている.赤外熱映像装置による計測では,湯だまり水面の温度はおおよそ50℃前後である.湯だまりの一部には,底から気泡が湧昇しているのが確認できる.南東側の陥没孔壁には,約40℃と湯だまり水面よりも若干低温の流水が流れ出ており,その流路は赤色に変色している.また,陥没孔底部の地表からわずかに噴気または湯気が上がっており,壁面には高温を示す部分が認められる.
4.形成原因の推定
陥没孔の周辺には,新しい堆積物や噴石によるクレーターが認められないことから,陥没孔形成前後に噴出現象は発生していないとみられる.
一方,陥没孔が形成された箇所は,2020年8月頃よりスポット的に高温の地熱異常がみられていた領域に一致するため,局所的な熱作用が今回の陥没を引き起こした主原因と推察される.陥没前の地表は周囲に比べやや白色を帯びており,硫黄が析出している小さな孔が点在していた.また携帯型のガス検知器で17ppm前後のH2Sが検知された.深さ約15cmの地温は全体的に90℃程度あり,最高は94.3℃であった.
今回の陥没孔が形成された大穴火口北部では,1966年に土砂噴出と陥没孔の形成が発生している.当時の噴出孔は既に移動土砂により埋積されているが,再堆積部は周囲に比べて空隙が多いことから,地下からの熱水や高温の火山ガスの対流等により地質が脆弱化し,陥没に至ったと推定される.なお,陥没に関連するとみられる地震波形や明瞭な傾斜変動は認められない.
大穴火口では,2020年7月22日から24日にかけてW-6b噴気孔で溶融硫黄の燃焼が発生している.監視カメラによる観測では,概ねこの時以降,W-6bの噴気の高さが大幅に低下するとともに,火口内の他の噴気孔の噴気の高さが上昇し,W-5噴気孔では定常的に50 mを超えるようになった.このことは,2020年7~8月頃を境に大穴火口の地下浅部で熱の流路に何らかの変化があったことを示唆しており,大穴火口北部の地熱スポットの出現および陥没孔の再形成に少なからず影響を及ぼしたものと考えられる.