日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC33] 火山の熱水系

2022年5月24日(火) 15:30 〜 17:00 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、コンビーナ:神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)、座長:大場 武(東海大学理学部化学科)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)

16:30 〜 16:45

[SVC33-11] 熱発光による熱源探査シミュレーターの開発と秋田県湯沢南部地域における複合的地熱探査

*佐藤 颯太1佐藤 貴啓1布原 啓史1、山田 亮一1平野 伸夫1土屋 範芳1 (1.東北大学)


キーワード:地熱

熱発光地熱探査法(Thermoluminescence: TL)は鉱物(石英)の熱発光現象から、鉱物が被った熱的影響を評価する手法であり、地熱探査の際に適用されている(斎藤ら,2017、Tsuchiya et al., 2016)。TL強度は鉱物が被った温度と時間によって変化すると考えられ、熱源の規模や位置を半定量的に推定することができるとともに、変質鉱物や物理探査情報などをもとに総合的な考察を行うことで地熱構造の推定が期待できる(布原ら,2021)。本発表では、秋田県湯沢市南部地域を対象に熱発光地熱探査法を実施し、変質鉱物に関する結果や地質図などを参考にしながらTLを用いた熱源規模推定の基本的アルゴリズムについて紹介する。
本地域周辺には三途川カルデラが分布し、このカルデラ内には、下位より、先第三紀の花崗岩類、変成岩類の基盤岩があり、その上位には泥湯層、虎毛山層が分布する。特に虎毛山層は一部溶結した凝灰岩で構成され、本地域で広く分布している。さらにその上位には三途川層、兜山層、高松岳火山岩類が分布する。今回の調査では、皆瀬川流域から虎毛沢、湯ノ又沢、赤湯又沢、小安沢、小鳥谷沢および大鳥谷沢周辺を中心に地質調査を実施した。
TL測定の結果、小鳥谷沢周辺にある蝸牛山や皆瀬川流域、赤湯又沢付近において低TL値をとることがわかった。特に蝸牛山周辺や皆瀬川の値が低くなっており、熱的影響が強いことが予想される。また、本地域には貫入岩と川原毛地獄と呼ばれる酸性変質帯が存在しており、その周辺のTLも低いことがわかった。このことからTLは地質的異常をうまく反映できているといえる。さらに、蝸牛山に着目すると高松岳火山岩類と三途川層の境界では高松岳火山岩類の方が低TL値になっており、有意にTL差があることがわかった。TLは直近の1-2Maの熱的影響を反映し、各層の形成時期は三途川層が2-4Ma、高松岳火山岩類は1Ma以下であることから、高松岳安山岩類は現在の熱的影響を顕著に反映している一方、三途川層については現在の熱的影響と同時に、時間経過に伴ったTL値の回復が起きていたと考えられる。このように蝸牛山の各層は形成時期が異なっており、それをTLがうまく反映していると示唆される。
変質鉱物は酸性、中性、アルカリ性の変質鉱物に大別することができる。本地域西部の湯ノ又沢ではアルカリ性変質帯、蝸牛山では酸性変質帯がみられた。また、皆瀬川中流ではパイロフィライトが確認され、この周辺は強い酸性変質作用があったと推測できる。この地域は酸性、アルカリ性変質鉱物は局所的に分布している一方で、中性変質鉱物は広域的に分布しているのが特徴である。TLと比較をすると酸性、アルカリ性変質が見られる場所ではTLの値が低くなっていることがわかった。即ち、熱発光挙動と熱水変質作用には相関があるといえる。
本地域の重力図をみると、パイロフィライトが確認された場所が高重力であった。以上の点をまとめると皆瀬川中流および蝸牛山において有望な地熱資源が伏在していると考えられる。また、TL強度の被熱に関する減衰速度式と、熱伝導モデルをカップリングさせた連星熱源探査シミュレーターについて紹介する。
参考文献
Tsuchiya, N., et al., (2016). 日本地熱学会誌, 38(4), 127-131.
斎藤ら(2017). 日本地熱学会誌, 39(2), 101-110.
布原ら(2021). 日本地熱学会誌, 43(2), 65-78.
栗山隆. (1985). 湯沢雄勝地域の地熱系モデル. 日本地熱学会誌, 7(3), 311-328.
竹野直人.(1988). 栗駒北部地熱地域の地質. 栗駒地熱地域における研究, 地質調査報告, 268, 191
金原啓司.(1988). 秋田県栗駒北部地熱地域の岩石変質と地熱系. 栗駒地熱地域における研究,地質調査報告, 268, 245