日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

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[U-09] 気象津波の発生を伴ったトンガ海底火山噴火

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (40) (Ch.40)

コンビーナ:日比谷 紀之(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、コンビーナ:前野 深(東京大学地震研究所)、コンビーナ:中島 健介(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、コンビーナ:田村 芳彦(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)、座長:日比谷 紀之(東京海洋大学 海洋環境科学部門)、前野 深(東京大学地震研究所)、中島 健介(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、田村 芳彦(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)

11:00 〜 13:00

[U09-P22] フンガトンガ・フンガハアパイ火山2021-2022年噴火のエスカレート型噴火推移

*池上 郁彦1,2下司 信夫1宝田 晋治1 (1.産業技術総合研究所、2.イケガミ・ジオリサーチ)

キーワード:フンガトンガ、大規模噴火、噴火推移、カルデラ形成噴火

火山噴火がどのような経過を辿るか予測することは、噴火開始の予知と並ぶ重要な火山防災上の課題である。産総研では国内外の噴火推移がよく記録されている大規模噴火の事例を収集した「噴火推移データベース」を作成し、噴火推移のパターンの解明を目指している。これまでの20事例の解析からは、噴火開始時にピークを迎える「減衰型」、明瞭なピークを持たず同等強度の噴火を繰り返す「多峰型」、そして噴火末期にクライマックスを迎える「エスカレート型」の3種類があることが分かっている。特にエスカレート型はピナツボ1991・キサプ1932・クラカタウ1883など歴史時代で最大級の噴火を多く含み極めて重大な災害をもたらしうることから、その予兆を掴む必要性がある。

フンガトンガ・フンガハアパイ火山2021ー2022噴火は約30日間の噴火期間からなり、12/20(UTC)に起こったやや強い噴火、1/14に起こった強い噴火、そして1/15に起こった極めて強い噴火に特徴づけられる。12/20の噴火開始以前に異常な海水変色や地震活動はみられなかった。12/20噴火は短時間でカルデラ北側に新しい火砕丘を形成したほか小規模な軽石いかだを発生させた。その後噴火強度は減衰し、特に12/25以降は弱いスルツェイ式噴火活動を行うのみになっていた。1/14噴火は12/20噴火よりも大きく消長しながらほぼ丸1日続き、12/20噴火でできた火砕丘が破壊され海没した。1/15日噴火は1時間程度の噴煙高度が50 km超に達する極めて強い噴火に始まり、その後10~20時間程度かけて減衰し終息した。クライマックス後の1/16からはM4を上回る顕著な地震活動が始まり、1/18頃にピークを迎え、その後1ヶ月あまりかけてゆっくりと衰えた。噴火推移データベースにおける分類では、噴火末期の活動レベルが開始時のそれを大きく上回っていることからクライマックス噴火を伴うエスカレート型の噴火活動と判断することができる。

噴火推移データベースにおいて本噴火と強い類似性を示す事例はクラカタウ1883年噴火である。両噴火は共に海域火山を舞台とし、降下軽石・浮遊軽石を生じさせるやや強い噴火で始まった。クラカタウのケースにおいてはその後約90日間、フンガトンガの場合はその後25日間活動度が低下し間欠的な噴火活動を行った。この期間は後続のクライマックス噴火にむけたマグマ供給系の準備過程であった可能性がある。その後再び起こった強い噴火と前後して、両者共に山体の破壊が進行していた点も構造性の準備過程として注目される。最終的に始まったクライマックス噴火はどちらもおよそ1日程度続き、多数の津波を発生させた。さらに噴火終息後は同様にカルデラ陥没過程との関連性が疑われる激しい地震活動が1ヶ月間続いた。今後海底および島の調査が行われることにより、このような稀だが防災上危険なエスカレート型の噴火推移の背景にある現象の解明が進むことが期待される。