日本地球惑星科学連合2023年大会

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[E] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS04] 台風研究の新展開~過去・現在・未来

2023年5月24日(水) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (1) (オンラインポスター)

コンビーナ:辻野 智紀(気象研究所)、金田 幸恵(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、伊藤 耕介(琉球大学)、宮本 佳明(慶應義塾大学 環境情報学部)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[AAS04-P08] 北西太平洋の熱帯低気圧が大気の川の形成に及ぼす遠隔影響

*草野 優一郎1濱田 篤1 (1.富山大学)

キーワード:大気の川、遠隔影響、熱帯低気圧

1.はじめに
中緯度域における水蒸気輸送の90%は大気の川に起因しており(Zhu and Newell 1998, MWR)、大気の川は中緯度域の降水活動に重要な役割を果たしていると考えられる。また、2018年7月西日本豪雨など甚大な被害を発生させた極端降水事例においても、大気の川との関係が指摘されている(e.g., Hirota et al. 2016, MWR)。大気の川の形成を予測することは防災・減災の観点からも重要であるが、その形成過程については未だ系統的に理解されているとは言えない。形成要因の一つに台風が挙げられるが、接近・上陸による直接的な影響だけでなく、間接的な影響もあることが分かってきた(Yoshida and Itoh 2012, JMSJ)。本研究では、北西太平洋における熱帯低気圧が大気の川の形成に及ぼす遠隔影響について、解析対象とする台風を客観的に抽出し、その中心気圧と九州付近の水蒸気輸送量の時間変化について解析した。その結果、中心気圧が最も低下した時刻から約72時間後に水蒸気輸送量が極大となる傾向が見られた。この結果を踏まえ、水蒸気フラックスを対流圏下層と上層に分けて鉛直積算し、それらの時間変化に着目した解析を行った結果を報告する。

2.使用データと解析手法
JRA-55再解析データ(水平1.25°、6時間毎)を用いて、対流圏下層(1000–700 hPa)と上層(700–300 hPa)の鉛直積算東向き・北向き水蒸気フラックス(それぞれIEF・INF)を求めた。このとき、下層の値と上層の値の和を全層の値とした。
台風が大気の川に与える遠隔影響を調べるため、10–25°N内でのみ存在し、かつ125°E以東で発生、以西で消滅した台風を客観的に抽出し解析対象とした(129事例)。九州付近でのIEF・INFの時間変化を調べるため、127.5–132.5°E, 30–35°Nでの平均値の平年偏差を求め、これらと気象庁ベストトラックによる台風中心気圧の関係について解析を行った。解析期間は1977~2020年である。

3.結果
すべての台風について、最発達時刻とその後最初にIEF・INFの平年偏差が極大となった時刻の差を求め、その頻度分布を調べた。その結果、最発達時刻からおよそ48–120時間後に極大となる事例が多い事が分かった。今回は下層のINFのラグが48-120時間となる事例について、最発達時刻をday=0.0とするコンポジット解析を行った。その結果、day=0.0~1.0頃では上・下層ともに南シナ海で低圧・九州付近で高圧・北海道付近で低圧の偏差パターンが見られた。day=2.0には上層の高圧偏差が衰退し、day=3.0には中国北部で新たな低圧偏差が形成される様子が見られた。day=4.0には中国北部の低圧偏差が発達しながら東進し、下層の九州付近の高圧偏差も東進する様子が見られた。これらのことから、IEFは上層における九州付近で南北の気圧傾度が大きくなり西風が強化されたことで増加し、INFは下層における東シナ海~九州付近の東西の気圧傾度が大きくなり南風が強化されたことで増加したと考えられる。
今後は偏差のパターンが時間を追うごとに変化していく理由についての解析を行う予定である。