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[AAS10-04] 北海道の過去の大雪事例における降雪粒子の密度に関する研究
キーワード:降雪、降水
2021年/2022年の冬季北海道において、記録的な大雪が複数回観測され、除雪が困難な「重い雪」であったことが報告されている(丹治ら,2022)。中でも、2022年1月11日-12日の大雪事例は、低気圧通過によってもたらされる降雪であり、降雪密度の大きい「重い雪」であったことが観測データから報告されている(丹治ら,2022)。
重い積雪層の形成される要因は、①雲粒付きや融解した粒子のように密度が大きい粒子による降雪が降ること、および②降雪粒子が地上に降った後に気温が高い条件下で溶けて積雪密度が増すことなどが報告されている(小島 1955, 1956, 1957)。しかしながら、なぜ2022年1月11日-12日が降雪密度の大きい雪となったのかについては必ずしも明らかではない。そこで本研究では、降雪粒子の密度に着目し、低気圧通過時の降雪粒子の密度に関する考察を、数値モデルを用いて行った。
まず予備的な調査として、過去17年に観測された大雪事例の降雪密度を調べた。結果から、2022年1月11日-12日の事例は、過去に観測された57の大雪事例のうち、降雪密度が最も大きいことが明らかになった。さらに、降雪密度が上位であった事例のほとんどが低気圧によってもたらされた大雪事例であったが、一部冬型の気圧配置による北西の季節風からもたらされた降雪も降雪密度が高い降雪であった。そこで、過去の57の大雪事例のうち、降雪密度の大きかった事例について、気象モデル(SCALE, Nishizawa et al. 2015)に、降雪粒子の雲粒付着の程度を区別することができるモデルProcess Tracking Model (PTM: Hashimoto et al. 2020)を実装したモデルを用いて、気象庁メソ解析値から力学的ダウンスケーリングによって計算を実施した。計算結果の解析から、低気圧によってもたらされた大雪かつ降雪密度が大きかった事例では、いずれの場合も雲粒付き結晶の質量割合は大きくなかった。これらの結果は低気圧の事例で降雪粒子の密度が高くなった原因は上記①のうち雲粒付きが多く降ったことによるものではないことを示唆している。また、積雪があった時間の、降水粒子に含まれる液体の水の割合は、低気圧通過時で50%以上となり、地表面付近の気温も0~−4 ℃程度と冬季の北海道の平年よりも気温が高かった。この結果は、低気圧の事例が部分的に融解した降雪粒子が降りやすい環境にあったことを示している。しかしながら、過去の大雪事例のアメダス観測から求めた降雪密度と地上気温は相関が弱く、地上気温が高いことで部分的に融解した降雪粒子が降りやすくなった結果、降雪密度の大きい雪がもたらされた、という説明は成り立たないことが示唆された。
参考文献
1. 丹治和博, 尾関俊浩, 松岡直基, 金田安弘, 金村直俊, 小松麻美, 2022: 雪氷, 41, 5-8.
2. 小島賢二, 1955: 積雪層の粘性圧縮 Ⅰ, 低温科學. 物理篇, 14, 77-93.
3. 小島賢二, 1956: 積雪層の粘性圧縮 Ⅱ, 低温科學. 物理篇, 15, 117-135.
4. 小島賢二, 1957: 積雪層の粘性圧縮 Ⅲ, 低温科學. 物理篇, 16, 167-196.
5. Nishizawa, S., Yashiro, H., Sato, Y., Miyamoto, Y. & Tomita, H. Influence of grid aspect ratio on planetary boundary layer turbulence in large-eddy simulations. Geosci. Model Dev. 8, 3393–3419 (2015).
6. Sato, Y. S. Nishizawa, H. Yashiro, Y. Miyamoto, Y. Kajikawa, & H.Tomita, Impacts of cloud microphysics on trade wind cumulus: which cloud microphysicsprocesses contribute to the diversity in a large eddy simulation? Prog. EarthPlanet. Sci. 2, (2015).
7. Hashimoto A.,Motoyoshi H.,Orikasa N.,and Misumi R.,2020:Process-Tracking Scheme Based on Bulk Microphysics to Diagnose the Features of Snow Particles,SOLA,16,51–56.
重い積雪層の形成される要因は、①雲粒付きや融解した粒子のように密度が大きい粒子による降雪が降ること、および②降雪粒子が地上に降った後に気温が高い条件下で溶けて積雪密度が増すことなどが報告されている(小島 1955, 1956, 1957)。しかしながら、なぜ2022年1月11日-12日が降雪密度の大きい雪となったのかについては必ずしも明らかではない。そこで本研究では、降雪粒子の密度に着目し、低気圧通過時の降雪粒子の密度に関する考察を、数値モデルを用いて行った。
まず予備的な調査として、過去17年に観測された大雪事例の降雪密度を調べた。結果から、2022年1月11日-12日の事例は、過去に観測された57の大雪事例のうち、降雪密度が最も大きいことが明らかになった。さらに、降雪密度が上位であった事例のほとんどが低気圧によってもたらされた大雪事例であったが、一部冬型の気圧配置による北西の季節風からもたらされた降雪も降雪密度が高い降雪であった。そこで、過去の57の大雪事例のうち、降雪密度の大きかった事例について、気象モデル(SCALE, Nishizawa et al. 2015)に、降雪粒子の雲粒付着の程度を区別することができるモデルProcess Tracking Model (PTM: Hashimoto et al. 2020)を実装したモデルを用いて、気象庁メソ解析値から力学的ダウンスケーリングによって計算を実施した。計算結果の解析から、低気圧によってもたらされた大雪かつ降雪密度が大きかった事例では、いずれの場合も雲粒付き結晶の質量割合は大きくなかった。これらの結果は低気圧の事例で降雪粒子の密度が高くなった原因は上記①のうち雲粒付きが多く降ったことによるものではないことを示唆している。また、積雪があった時間の、降水粒子に含まれる液体の水の割合は、低気圧通過時で50%以上となり、地表面付近の気温も0~−4 ℃程度と冬季の北海道の平年よりも気温が高かった。この結果は、低気圧の事例が部分的に融解した降雪粒子が降りやすい環境にあったことを示している。しかしながら、過去の大雪事例のアメダス観測から求めた降雪密度と地上気温は相関が弱く、地上気温が高いことで部分的に融解した降雪粒子が降りやすくなった結果、降雪密度の大きい雪がもたらされた、という説明は成り立たないことが示唆された。
参考文献
1. 丹治和博, 尾関俊浩, 松岡直基, 金田安弘, 金村直俊, 小松麻美, 2022: 雪氷, 41, 5-8.
2. 小島賢二, 1955: 積雪層の粘性圧縮 Ⅰ, 低温科學. 物理篇, 14, 77-93.
3. 小島賢二, 1956: 積雪層の粘性圧縮 Ⅱ, 低温科學. 物理篇, 15, 117-135.
4. 小島賢二, 1957: 積雪層の粘性圧縮 Ⅲ, 低温科學. 物理篇, 16, 167-196.
5. Nishizawa, S., Yashiro, H., Sato, Y., Miyamoto, Y. & Tomita, H. Influence of grid aspect ratio on planetary boundary layer turbulence in large-eddy simulations. Geosci. Model Dev. 8, 3393–3419 (2015).
6. Sato, Y. S. Nishizawa, H. Yashiro, Y. Miyamoto, Y. Kajikawa, & H.Tomita, Impacts of cloud microphysics on trade wind cumulus: which cloud microphysicsprocesses contribute to the diversity in a large eddy simulation? Prog. EarthPlanet. Sci. 2, (2015).
7. Hashimoto A.,Motoyoshi H.,Orikasa N.,and Misumi R.,2020:Process-Tracking Scheme Based on Bulk Microphysics to Diagnose the Features of Snow Particles,SOLA,16,51–56.