日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC25] 雪氷学

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (6) (オンラインポスター)

コンビーナ:砂子 宗次朗(防災科学技術研究所)、谷川 朋範(気象庁気象研究所)、渡邊 達也(北見工業大学)、大沼 友貴彦(宇宙航空研究開発機構)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[ACC25-P11] マイクロ波を強く反射する地上物体と合成開口レーダーを利用した積雪の空間分布可視化手法の検討

*永井 裕人1,2山口 悟2砂子 宗次朗2 (1.早稲田大学 教育学部、2.防災科学技術研究所)

キーワード:SAR、積雪深

東北・上越・北陸地⽅では、古くより冬の豪雪に適応しながら地域社会が成り⽴ってきた。地球温暖化が進⾏すると、年間降雪量が減少する⼀⽅で、極端な降雪イベントが⾼頻度に現れると指摘されている。これは交通障害に加え雪崩や送電線への着雪など雪氷災害の原因となり、また流域単位での積雪総量が毎年⼤きく変動すると、融雪時のダムや河川の⽔資源管理が複雑になる。
 このような問題を解決するためには、積雪深の空間分布を⾼解像度に把握することが必要である。積雪深空間分布の推定に⼤きな可能性を持っているのが、衛星に搭載された合成開口レーダ(SAR: Synthetic Aperture Radar)を⽤いた⼿法である。衛星方向に散乱して返ってくるマイクロ波の強さを示す後方散乱係数は、積雪深や水分量によって大きく変化する。著者らのこれまでの研究により、マイクロ波を強く反射する電波反射鏡(CR: Corner Reflector)を雪に埋めることによって、CバンドSARのマイクロ波が25 cmから50 cmの深さの積雪に反応し、0 dB以上から-5 dB以下に高感度に低下することが明らかになった。
 このような元々マイクロ波を強く反射する構造体はCR以外にも無数に存在する。そのような強散乱を生じる地物(SRO: Strong Reflecting Object)を事前に見つけておき、積雪に伴う後方散乱係数の変化を捉えることで、広域での高感度な積雪把握が可能になると考えられる。本研究の目的は、点在するSROにおける後⽅散乱強度の減少量(11⽉との差分)を空間解析し、積雪深実測値で校正することにより、SROを用いた積雪深広域把握の有効性を検討することである。
 本研究では欧州宇宙機関が運用するCバンドSARであるSentinel-1がScanSAR(IW: Interferometric Wide)モードで2017-2023年に観測したデータである。軌道番号46から観測される東日本ほぼ全域(北海道〜東京都)を対象領域とした。観測領域における入射角は約30-45°である。
 まず11月に観測されたスペックルノイズ除去ずみ後方散乱係数の平均値が0 dB以上の領域をSROとし、その画素のみを抽出した。降雪が見込まれる12月以降のスペックルノイズ除去ずみ後方散乱係数と11月平均画素値(降雪前の水田が灌水されていない状況を想定)の差分を求め、複数のフィルター処理を適応することにより、冬季の間にそれぞれのSROにおいてどれくらい後方散乱係数が低下するかを空間解析した。
 解析の結果、積雪に対して高感度に反応するSROが北海道から関東地方に至るまで広範囲に認められることがわかった。一方で、土地被覆の条件によっては、積雪との対応が見られないSROも多数見られた。今後の課題は積雪変化に対応するSROだけをどのようにすれば適切に選択し、点の分布から面の分布に変換し、マップの形式で可視化できるか、という点である。本発表でいくつかの検討例を紹介し、土地被覆が考慮され各用途に応じたマップ作成への発展方法を議論する。