日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC26] アイスコアと古環境モデリング

2023年5月22日(月) 15:30 〜 16:45 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:植村 立(名古屋大学 環境学研究科)、竹内 望(千葉大学)、川村 賢二(情報・システム研究機構 国立極地研究所)、齋藤 冬樹(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:大藪 幾美(情報・システム研究機構 国立極地研究所)、植村 立(名古屋大学 環境学研究科)、竹内 望(千葉大学)、齋藤 冬樹(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

16:30 〜 16:45

[ACC26-10] 後期完新世における中央アジア天山山脈のアイスコアによる環境復元と民族移動の比較研究

*伊藤 彩也香1竹内 望1、久米 正吾2、Schwikowski Margit3藤田 耕史4、Aizen Vladimir5 (1.千葉大学、2.金沢大学、3.ポールシェラー研究所、4.名古屋大学、5.アイダホ大学)


ユーラシア大陸内陸部に位置する中央アジアの山岳地帯には,後期完新世に西アジアから移入してきた人々により農業や牧畜がもたらされたことが,考古学的証拠によって明らかになっている.この時期に人々が移入してきた要因の1つに気候変動が考えられる.この地域の過去の気候変動を明らかにする手段の一つがアイスコアである. 2007年に天山山脈のグレゴレア氷帽で掘削されたアイスコアは,深さ87 mで底部岩盤に達し,最深部は炭素放射性同位体によって約13000 cal yr BPであることが明らかになっている.本研究では,グレゴリア氷帽のアイスコア記録と,氷河周辺の考古遺跡が出現した年代を比較し,山岳域への遊牧民の移入の要因を明らかにすることを目的とした.より高い時間解像度で気候変動を復元するために,後期完新世に対応する深度76.26~79.81 mについて約 1 cm 間隔で分割し,合計319サンプルの水の酸素・水素安定同位体比(δ18O・δD)と主要化学成分の再分析を行った.分析を行った深度では2点で放射性炭素同位体による絶対年代(6500 yr cal BP-2500 yr BP)が明らかになっており,この2点を使って線形関係であることを仮定して,深さと年代の関係を求めた.分析の結果,酸素安定同位体比は数百年の周期で上下を繰り返していることが明らかになった.復元した気温との比較の結果,考古遺跡が出現した年代は温暖化した時期に一致することがわかった.アイスコアの溶存化学成分の結果,考古遺跡が出現した年代には,複数回のダストイベントが起こっていたことがわかった.アイスコア中の花粉の記録から,遺跡が出現する以前の4700 cal yr BPに樹木から草本へ植生が大きく変化していることがわかった.以上の分析結果から,後期完新世の気温の上昇とダストイベント,さらに山岳域の草原の拡大という環境変化が,中央アジアの民族移動に影響を与えた可能性が明らかになった.