日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG30] 中緯度大気海洋相互作用

2023年5月22日(月) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (2) (オンラインポスター)

コンビーナ:関澤 偲温(東京大学先端科学技術研究センター)、桂 将太(東京大学大気海洋研究所)、安藤 雄太(九州大学)、木戸 晶一郎(海洋開発研究機構 付加価値創生部門 アプリケーションラボ)


現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[ACG30-P18] 黒潮・黒潮続流域におけるメソ~総観規模低気圧の統計解析

*九鬼 雪花1濱田 篤1田口 文明1 (1.富山大学)

キーワード:黒潮続流、ストームトラック

黒潮およびその下流にある黒潮続流は西岸境界流の一つであり、高い海面水温を維持しながら中緯度大気に大量の熱と水蒸気を供給している。この熱と水蒸気の供給に伴う非断熱加熱が低気圧の急速な発達(Hirata et al. 2015)や持続的な海上風収束(Masunaga et al. 2020)に寄与しているということが、近年明らかになってきた。黒潮域においては、黒潮の流路が温帯低気圧の経路や発達率に与える影響が調べられてきた(Nakamura et al. 2012)。しかし、黒潮続流域における低気圧の経路、発生、発達について統計的に解析した研究は少ない。そこで本研究では、黒潮・黒潮続流域におけるメソ~総観規模の低気圧を客観的手法によって同定・追跡し、それらの気候学的な挙動を統計的に調べ、低気圧のスケールによる挙動の違いと、その要因について考察した。
低気圧の追跡には欧州中期気象予報センターが提供する全球再解析ERA5(水平0.25°格子、1時間ごと)の850 hPaジオポテンシャル高度と相対渦度を使用した。黒潮・黒潮続流の流軸の同定にはCMEMSの海面高度偏差(水平0.25°格子、1日ごと)を使用した。解析期間は2000~2019年である。
低気圧の同定・追跡には、隣接閉領域追跡(NEAT)法(Inatsu and Amada 2013)を用いた。NEAT法はある条件を満たす面的領域を時間的に追跡する手法である。定常的な渦を取り除くため、850 hPa高度および相対渦度にカットオフ10日のLanczosハイパスフィルタを適用した。10日ハイパス850 hPa高度および相対渦度の時空間分布に見られた特徴をもとに、10日ハイパス850 hPa高度が−40 m以下、または10日ハイパス850 hPa相対渦度が5×10−5 s−1以上、かつ面積が10000 km2以上、という条件を満たす領域をそれぞれ総観規模低気圧、メソ低気圧と定義し、NEAT法により追跡した。
NEAT法を用いた追跡の結果、メソ低気圧の頻度は季節によらず北緯35度あたりで高く、特に冬季の黒潮続流域で極大となることが分かった。一方、総観規模低気圧の頻度が高い緯度帯は偏西風帯の季節変化に伴って北上、南下していた)。黒潮続流域におけるメソ低気圧の増加が黒潮続流の影響によるものだと考え、海面高度偏差の水平勾配の極大値から黒潮・黒潮続流の流軸を同定した上で、流軸に相対的な低気圧の分布を調べた。その結果、メソ低気圧は冬季の黒潮続流で多く、発達率も高いことが分かった。
メソ低気圧の頻度増加の要因として、静水圧効果および鉛直混合効果(e.g., Tanimoto et al. 2011)が考えられる。大規模な海上風が黒潮続流域で特徴的な海上風の収束発散場を形成し、この収束が強められたところで低気圧の数と発達率が増加していることが考えられる。また、黒潮続流からの熱や水蒸気の供給に伴う非断熱加熱が海上風の収束を強め、低気圧の発生・発達を促していることも考えられる。今後は、黒潮・黒潮続流域のメソ低気圧の発達過程について、特に非断熱加熱の役割に着目して、海上風収束、海面熱フラックス、上層強制、下層傾圧性についても解析していく予定である。