10:45 〜 12:15
[ACG33-P01] 南太平洋ツバルのサンゴ年輪が記録する過去70 年間の塩分変動および貿易風挙動
★招待講演
キーワード:ツバル、サンゴ年輪、酸素同位体比、塩分、貿易風、数十年規模変動
近年 熱帯域の水循環や大気海洋結合現象において, 水温とともに塩分の役割の重要性が指摘されるが, 塩分の長期観測データは非常に限られている. 熱帯のサンゴ年輪骨格の微量化学組成は代替の海洋環境情報を提供する. 特に炭酸塩骨格の酸素同位体比(δ18Ocoral)は, 水温と海水の酸素同位体比(δ18Osw) により規定され, 古水温計として有用される. また海水の酸素同位体比は, 河川水の流入, 降水―蒸発過程や水塊移流による塩分の指標とされる. しかしサンゴ骨格の酸素同位体比(δ18Ocoral)に対する水温と塩分の寄与は一定でなく, 海域や地理・気候条件により異なっている. これまでにも様々な海域でサンゴ年輪から水温・塩分復元が試みられてきた. 今発表では南太平洋収束帯(SPCZ)の北端に位置する南太平洋ツバル (8°37′S, 179°04′E) における長期水循環と変動要因の解明を目的とし, 2009年 3月に採取されたハマサンゴ骨格年輪のδ18Ocoral分析結果を示す.
ツバルは標高3-4mで河川の存在しない小さく低い島である. 首都フナフティ環礁の気候値として, SSTは平均29.5℃,最高29.9℃(3月),最低 29.1℃(9月)であり,年間の水温差は0.8℃と小さい. 雨季は12–3月,乾季は5–10月,年間降水量は 3–4000mm(最多1月,最少9月)となっている. また3–9月には貿易風(東風)が,10–2月には西風が卓越し, SPCZの南北移動やエルニーニョ・南方振動(ENSO)が島での水資源の多寡に影響する.
フナフティ環礁フナファラ島 (8°37′48.4″S, 179°04′44″E)で採取されたサンゴコア(98cm)は, 連続した70 年間(1940-2009) の年輪が確認され, 月単位の酸素同位体比(δ18O)分析が行われた. 70 年間のδ18O変動には水温の季節変動のほか, 十年規模および数十年規模変動が表れている. また 過去70年間のδ18O変動幅は0.98 ‰ (1978-2009 では0.6 ‰)となった.
まず観測記録の残る1978年以降の最近30年間で, δ18Ocoralと観測水温を比較すると, 高い相関は見られなかった(r=-0.45). 年間の水温差が1℃内(δ18O 約0.2 ‰ 相当)と小さいことから, ツバルでのδ18Ocoral 変動(1978-2009 期間に0.6 ‰)は, 水温の影響0.2 ‰の他に海水の酸素同位体比(δ18Osw ) 約0.4 ‰が影響した混成とみなすことができ, これは約2psuの塩分変動に相当する.
1980年代以降について雨季(12-3月)のδ18Ocoral偏差と降水記録, および再解析塩分との比較を行った結果, 降水との相関は低く(r=-0.3), 一方で塩分との相関は非常に高かった(r=0.76).
さらに雨季(12-3月)の δ18Ocoralの偏差とツバル周辺の海面高度データとの相関マップは,δ18Ocoral 値が高いときに南東から北西に向かう流れが強まること(高塩分水塊の移流)を示唆している.したがって, ツバルの雨季δ18Ocoralの変動は, SPCZの移動, Walker循環, ENSO変動と関連する貿易風の強弱による, 塩分偏差を反映していると考えられる.
復元された70年間のδ18Ocoral変動には数十年規模変動が見られ, 特に1950年代から1977/78年にかけてはδ18Ocoral値が高い傾向にある. 70年間のδ18Ocoral変動の Wavelet Spectrum 解析からは, 長周期と短周期のスペクトルを確認したが, 両スペクトルは70年間を通して短周期化しており, 南太平洋熱帯域での塩分変動が太平洋数十年規模変動(IPO)や ENSO等の大気海洋結合現象の変調に関係する可能性が示唆された.
ツバルは標高3-4mで河川の存在しない小さく低い島である. 首都フナフティ環礁の気候値として, SSTは平均29.5℃,最高29.9℃(3月),最低 29.1℃(9月)であり,年間の水温差は0.8℃と小さい. 雨季は12–3月,乾季は5–10月,年間降水量は 3–4000mm(最多1月,最少9月)となっている. また3–9月には貿易風(東風)が,10–2月には西風が卓越し, SPCZの南北移動やエルニーニョ・南方振動(ENSO)が島での水資源の多寡に影響する.
フナフティ環礁フナファラ島 (8°37′48.4″S, 179°04′44″E)で採取されたサンゴコア(98cm)は, 連続した70 年間(1940-2009) の年輪が確認され, 月単位の酸素同位体比(δ18O)分析が行われた. 70 年間のδ18O変動には水温の季節変動のほか, 十年規模および数十年規模変動が表れている. また 過去70年間のδ18O変動幅は0.98 ‰ (1978-2009 では0.6 ‰)となった.
まず観測記録の残る1978年以降の最近30年間で, δ18Ocoralと観測水温を比較すると, 高い相関は見られなかった(r=-0.45). 年間の水温差が1℃内(δ18O 約0.2 ‰ 相当)と小さいことから, ツバルでのδ18Ocoral 変動(1978-2009 期間に0.6 ‰)は, 水温の影響0.2 ‰の他に海水の酸素同位体比(δ18Osw ) 約0.4 ‰が影響した混成とみなすことができ, これは約2psuの塩分変動に相当する.
1980年代以降について雨季(12-3月)のδ18Ocoral偏差と降水記録, および再解析塩分との比較を行った結果, 降水との相関は低く(r=-0.3), 一方で塩分との相関は非常に高かった(r=0.76).
さらに雨季(12-3月)の δ18Ocoralの偏差とツバル周辺の海面高度データとの相関マップは,δ18Ocoral 値が高いときに南東から北西に向かう流れが強まること(高塩分水塊の移流)を示唆している.したがって, ツバルの雨季δ18Ocoralの変動は, SPCZの移動, Walker循環, ENSO変動と関連する貿易風の強弱による, 塩分偏差を反映していると考えられる.
復元された70年間のδ18Ocoral変動には数十年規模変動が見られ, 特に1950年代から1977/78年にかけてはδ18Ocoral値が高い傾向にある. 70年間のδ18Ocoral変動の Wavelet Spectrum 解析からは, 長周期と短周期のスペクトルを確認したが, 両スペクトルは70年間を通して短周期化しており, 南太平洋熱帯域での塩分変動が太平洋数十年規模変動(IPO)や ENSO等の大気海洋結合現象の変調に関係する可能性が示唆された.